第11話  奴隷からの脱却 5 家令のクソヤローが狼狽 ざまぁみろ

「おい、止まれ。

なんかいつもよりおかしいぞ。

もっと諦念と嫌悪とぎこちない媚びが入り混ざった感じなのに今日は違うぞ。

どうした、何があったのだ」

家令バーナードが厳しい表情で俺を咎めた。


-------------------------------


えっなんで気づかれた?


「お前のその美しい顔を曇らせるのが快感でたまらないのだ。

だが今日はどうだ、憎しみを秘めているように感じるのだが」


「そんなことありません。

ご主人様に対し良くない感情を抱くと呪いがかかります。

僕にはご主人様の方がいつもより落ち着きがないように思えます」


「そうか? 気づかぬうちにちょっと気が高ぶっていたのか。

パレッティの一族をおびき寄せて始末しようとしたが、事がうまく運ばずイライラしていたのかもしれない」


ざまぁみろ、それは俺があいつらにチクったからだ、いい気味。


「よし、こっちへ来なさい」


なんとか誤魔化せたか。

あれっここに準伯爵までいるぞ。

可哀相に隷属魔法で支配されてるのか。

逃げ出したパレッティ一族の中で独り犠牲になってるんだよな。

前領主の一族は行動を起こしてくれるんだろうな。

それらしき者たちが奴隷区に紛れているのを見かけたが。


駄目貴族の見本のようなやつらだからな。

俺のことも始末するとかおもちゃにするとか言ってたな。

思い出したら腹が立ってきた。


一時交換でスキルを交換してここにいる者たちを弱体化する。

それでも思ったより数が多い。

もう少し人を減らせないか。

その方が殺った後逃げやすいんだが。


「ご主人様、いつもより見ている人が多いです。

なんか恥ずかしい」


「今日は忙しいから人が多いがいつもと違う者に見られるのもまた一興だろう。

さあ時間が押してるから」

家令のクソヤローは黒い笑みを浮かべた。


この変態、ああ仕方ない、近づいて心臓か首を一刺しで決めなきゃな。


           ◇


そこへ慌ただしい物音がした。

誰かが入ってきた。


「家令様、南部諸侯軍の伝令だと名乗る者が面会を求めております」

代官のところの下役が緊張した様子で用件を伝える。


そこへ「通せ」と言いながら小柄でありながらガッチリした男が入ってきた。

泥だらけだがよく見るとどこの領地の者かはわからないが騎士の格好をしている。

ところどころに血もついているようだ。


「策は破れたぞ、バーナード」


偉そうにふんぞり返っていた家玲が慌てて椅子から立ち上がる。

「貴方はビラステヤ大公殿下の宝剣と言われているクロダイル勲爵。

その格好はどうなさったのですか」


「東部軍が奇襲攻撃を仕掛けてきた。

具体的には東部との境界の子爵領にビラステヤ大公殿下が集めていた諸侯合わせて四万の軍に対し、エテ侯爵が二万の軍で不意打ち。

我々の軍が乱れたところを密かに回り込んでいたらしい首切り大公率いる軍およそ一万が左右から襲いかかってきたのだ。

南部軍四万は壊滅状態となった」


「なんと…… 生き残りは」


「主だった方々はみんな戦場で散ってしまった。

殿下は行方知れずだ」


「私の方には正規の準伯爵軍が三千人、それに二千もの屈強な奴隷兵がおります。

今から軍を立て直して、巻き返しを図りましょう」


「四万の軍はもう千も残っておるまい。

それに今回かなり兵を集めたからもう無理だ」


「私はまだ大公を継がれる前の殿下に指示されてこの領地に潜り込み、信用を得て掌握したというのに。

これまでのことがすべて無駄になってしまった」

家令のクソヤローは崩れ落ちた。

ざまぁ。


しかし、大変な話をしているよなあ。

侯爵様はフライングしたんだ。

本来なら俺が家令バーナードを始末してから軍を起こすはずだったのに。

まあおかげで、落胆している家令を見られたからいいか。


どう転んでも家令には未来はない。

それを本人もはっきりとわかっているはずだ。


家令バーナードが顔を上げた。

「奴隷が集まっている中庭に行くぞ」


すると宝剣と言われているらしいクロダイル勲爵が叫びながらバーナードに斬りかかった。

「貴様のところから情報が漏れたのだ」


勲爵は家令の前に立ち塞がった奴隷のうち三人をあっという間に倒す。

奴隷は俺がスキルを交換して弱体化しておいたから弱い。

勲爵のこの動きはあきらかに身体強化系の魔法だ。

多分疲労しているだろうにこれだけ動けるとは驚きだ。


「代官、腕の立つ奴隷を沢山連れてこい」

家令バーナードが叫んだ。


いつも大物気取りな奴が取り乱しているのが滑稽だ。

しかしこの展開、今がチャンスだろう。


俺はわざと震えながらクソヤローを背にして護るような姿勢を取る。


「タウロ、お前はそんなことしなくていい。

うん、私の近くへおいで」


これがチャンス、俺はクソヤローに近づくと短剣で襲いかかった。

しかし間一髪護衛の魔法使いに防がれ俺は後ろへ飛び下がった。


「どうしてタウロお前は私を襲うことが出来るんだ。

隷属魔法はどうなっている」


「おいバーナードそんなことはどうでもいい。

タウロ緑頭の小僧が今回の計画を潰したのかもしれないぞ。

まず倒しちまおう。

バーナードお前に話を聞くのはその後だ」


うーんまずい、こりゃ家令を始末するどころじゃないな。

そう思いながらも俺は攻撃を防いでいる。

スキルしか持たないやつはで戦闘スキルを前世の役に立たないスキルと交換することで弱体化している。

しかしこの場には魔法使いが三人と、家令といつも一緒に行動する得体の知れない者が一名、こいつはさっきから何も仕掛けてこないが不気味だ。


炎の魔法が飛んでくるのもうっとうしい。

短剣を得物にしている場合有効なのは前世のスキル熊谷流古武道か岡田式古武術か藤森流忍道あたりだな。

なんとかこれらを用い倒せねば。


しかし時間が経てば経つほど不利になる。

撤退? 奴隷を解放するチャンスはなかなかないぞ。


すると広く豪華な家令専用の部屋に飛び込んでくる者がいた。


「遅くなって済まん待たせたな、相棒」

侯爵家で俺と訓練してくれたピンク頭がそう言って手を挙げた。

東部大公の領地で二番目に強いって言われてたがそれは疑いようがない。

そのぐらいの実力を持っている。

服は泥だらけだが、もしかして戦場から駆けつけたのか。

疲れているだろうが、彼はバケモノだ、大丈夫だろう。

相棒、頼りにしてるぜ。

さあこれで形勢逆転だ。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る