第10話 奴隷からの脱却 4 模擬戦Ⅱ そして本番へ
迫る前に相手の魔法使いの口角が僅かに上がった。
嫌な予感がして強引に向きを変えた。
奴から水が発射された。
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バケツ一杯ぐらいのの水が飛んでくる。
俺は落ち着いて避けた 。
水の発射と同時に魔法使いは刃引きした細剣で突いてくる。
木棒で細剣を叩き落とすと魔法使いの首に軽く当てた。
しかし なんだ今の魔法発動の速さは 。
使い手による誤差はあっても上級魔法は十二秒ぐらいだと油断していた。
今のは四秒ぐらい? ってことは水下級、水撃か。
「上級の使い手だから上級しか使えないってことはないんだぞ。
複数の等級を使える者もいる。
中級貴族じゃなきゃ金銭的に難しいだろうがな」
ミックが教えてくれる。
「勉強になります」
◇
家令バーナードのクソヤローの警護をしているもう一人の魔法使いは身体強化系スピード・中級魔法の使い手だ。
短剣術スキルの上級まで持っている。
その者の対策として身体強化系オール・特級の使い手を宛がってきた。
「いいか、こいつは大公領で二番目に強いぞ。
身体強化系だから大規模魔法は使えないが、それでも二個小隊ぐらいなら一人で食い止めるだろう。
バーナードの護衛全員と同時にやっても多分負けないぞ」
「二個小隊って百人近い数、凄いなあ。
でもなんで大公領の人がここにいるのです」
「ああ…… 今この領地に大公が来てるんでその護衛なんだ」
「よく護衛の方を借りられましたね。
あっ大公殿下にも今回の不穏な動きがあるという話が伝わればいいのですが」
「大公も承知してるから大丈夫」
「えっそうなんですか」
「もういいだろう、いつまでも大公殿下の護衛を借りとく訳にもいかないしな。
ミック殿も大公殿下に敬称をつけぬとは不敬ではないか」
侯爵が突然急かしてきた。
◇
ミック曰く大公領で二番目に強いという相手と俺は向かい合っている。
魔法の種類は身体強化オールだと説明があった。
ということはすべての能力が高いということだ。
知識の限りでだと、オールとはスピード・跳躍・反射・硬化・持久力・パワー・五感ってとこか。
身体強化オールは魔法使いの百人に一人しかいないらしい。
その代わりスキルに関して触れなかったからスキルはないんだろうな。
目の前に立つ男は中肉中背のどこにでもいそうな人物だ。
敢えて言うとピンクの髪だけがカラフルで目立つ。
それだけの雰囲気なのに、蛇に睨まれた蛙のように動けない。
先制攻撃しなければ。
特級は内唱に二十一秒ほどかかるからその前に。
しかしその時ピンクの色が目の前に現れる、突然。
木剣が風を斬る。
慌てて俺は体を曲げそれを躱しながら木棒を突き出す。
ピンクの彼は何事もないかのように俺の突きを払った。
そしてじっと俺を見る。
「久々に楽しめそうだね」
相手は俺と向かい合った時にはもう身体強化の魔法を発動してたんだ。
その後は彼が何度も仕掛けてきたのをなんとか俺がしのいでいる。
周りにどう思われるかなんて気にする余裕もない。
こんな強者と訓練できるなんて滅多にないことだろう。
長い時間やっとの思いで防いできたように思う。
しかしミックの声が現実を教えてくれる。
「三分経過」
ああ勝てるイメージが湧かない。
前世で習得した天地二刀流か光明一刀流か不触功剣流を使おう。
それでも勝てるかわからないが、無様に負けたくない。
もう少しで集中が切れるだろう。
その前にやれることはやっておきたい。
光明一刀流では技のキレは勝ててもスピードで負け捉えられるかもしれない。
天地二刀流だともう一本得物がなければ。
不触功剣流で剣筋を変化させるしかない。
それでも勝てるかわからないが軌道を変えて不意を打つ。
全身の力を抜き、関節を使う。
その前に木棒の握りから不触功剣流の握りに変えた。
何かを感じた彼は下がらずに前に出た。
ありがたい、あんたに下がられると付いていけないんだ。
近づいてきてくれてよかった。
不触功剣流は本来なら相手に攻撃される前に仕掛け、その攻撃は躰で躱し、一太刀浴びせる技だ。
だが今回は無理だ、相打ちを狙う。
しかし身体強化オールの特級をまだ甘く見ていた。
俺は彼に打ち込んだつもりだったが、感触がない。
そして目の前に彼はおらず、背中に木剣が軽く置くように当たるのを感じた。
「それまで」
ミックが戦いを止めた。
「たいしたもんだ。
これだけやれれば大丈夫じゃないか。
ホントに奴隷なのか、どうやってそれだけ強くなったんだ」
十名ほどの者が見ていたが皆色々と聞いてくる。
だがホントのことは言えない。
で、ヴァネッサに指導してもらったと説明したが到底納得できないようだ。
それで夢の中に銀のネエチャンが現れそれから急に強くなったということにする。
銀のネエチャンとは言わず、女神様と説明したが。
すると変な雰囲気になった。
特に侯爵とミックが真面目な表情でコソコソ話をしていた。
もしかしてイタイ奴と思われたのか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日は六月十二日、いよいよ決行の日だ。
家令バーナードのクソヤローを絶対仕留める。
昨日の夜ここに来たらしい家令は、いつもよりも忙しそうにしている。
そりゃこれから兵を挙げて侯爵領を奇襲するからその準備で忙しいだろうよ。
俺が呼ばれるのはいつも昼食後の時間だ。
ドキドキしながら軍備の手伝いをしていると遂に家令に呼ばれた。
◇
家令専用の広く豪華な部屋にに入る。
するといつもの護衛以外にも人が居るのがわかる。
顔だけ知っているここの奴隷が八人いた。
この奴隷たちはなかなかの腕前と噂されている。
だがヴァネッサより上ってことはあるまい。
そして魔法は使えないはずだ。
予想以上にハードルが上がったな。
俺はここで命を捨ててもいい覚悟だったらバーナードをなんなく殺れるだろう。
しかしこの後俺にはやらなければならないことがある。
ここで死ぬ訳にはいかない。
とにかくバーナードに近づいて、いつもような雰囲気になって油断したところへ
隠し持っている短剣で一撃、そして逃げる。
バーナードが死ねば隷属魔法は解除されるから、後は現領主か前領主、もしくは侯爵か大公がなんとかしてくれるだろう。
いつものように家令バーナードに歩み寄る。
「おい、止まれ。
なんかいつもよりおかしいぞ。
もっと諦念と嫌悪とぎこちない媚びが入り混ざった感じなのに今日は違うぞ。
どうした、何があったのだ」
家令バーナードが厳しい表情で俺を咎めた。
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