第9話 奴隷からの脱却 3 模擬戦Ⅰ
「わかった。今ここで念書を書こう」
そして俺は念書を渡された。
「我々も急いで準備に取りかからねばならぬ。
もう下がってよいぞ」
◇
俺はその場から去る振りをして一時交換で手にしている隠密と元々のスキル忍道を使い天井裏に張り付いた。
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「許せんあの奴隷風情が!
この場で手打ちにしてやりたかったわ」
「そうなさればよかったのに」
「いつでもあいつは始末できる。
まずはあの忌々しい
「そうですね 、さっきの奴隷も自分が利用されるだけとも知らずに愚かな奴です」
「奴隷の身で我々に何かお願いするとは。
図々しいにも程がある。
天恵のスキルを得たばかりということは私と同じ年。
今回うまく事が運んだら、私のおもちゃにさせてください」
俺は天井裏の隙間から覗いていたが非道いことを言ってるのは俺と同じぐらいの歳の奴なのか。
まるまると太りやがって、もっとおっさんかと思ったぞ。
丸焼きにしてやんぞ。
「ここでは何かと不自由させたが、成就した暁には好きにさせてやろう」
ふっ、お前達の思い通りにはさせないよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
首切り大公の飛び地から大公の領地まではかなり遠い。
それで引き返して 準伯爵領の隣のエテ 侯爵領に向かった。
心なき者からはエテ侯爵と言われている、サブラゴス侯爵との接触も前以て手紙を居城に置くことで知らせた。
そして面会にありつけた。
まだ四十前後ぐらいの年齢に見える侯爵はやや小柄で少しお腹が出ている。
火系魔法の使い手として有名らしい。
パレッティ一族と違い警備が厳しく、侯爵の前には三人の護衛が控え俺を油断なく見ている。
俺の左右横に一人ずつ、後ろにも一人、そして部屋にはさらに五人の護衛がいた。
緊張したが伝えるべきことはすべて伝えた。
卑民から下民に身分をあげて貰いたい旨も。
しかしすごい警護だ。
この場合俺が何か仕出かすのを防ぐためにいるんだろうけど。
「よくわかった。
タウロとやら、お前が持ってきた情報は今から精査し、そして動く。
いやいや疑っている訳ではない。
我々も密かに調べ南部の奴らの思惑は感じておった。
今回の件に関してはまだ気づいてなかったが」
侯爵の柔和な目つきが急に鋭くなる。
「お前はなぜバーナードの隷属魔法が効かないのだ」
「ある時強く頭を打ち気絶したようで、意識が戻ってから隷属魔法が効かなくなったように思われます」
「ふむ、そういう事例は聞いたことがない。
不思議なこともあるもんだなあ。
ところで、お前がバーナードを倒せるかどうかで形勢がだいぶ変わってくる。
何しろ奴隷軍は軍事訓練で鍛えているし、死ぬまで向かってくるはずだ。
それが二千人近くいるのだろう。
隷属魔法が解けたら奴隷はほぼ全員が降伏するからいいが、もしお前がバーナードの暗殺を失敗したら」
目の前の侯爵はこの前の何も考えていない一族とは違う、流石だ。
「そこが自分でも不安ではあります」
「よし、まずは模擬訓練をしよう」
「模擬訓練…… ですか?」
「そうだ、バーナードの身辺を警護している者は把握している。
五人いてその中に二人も魔法使いがいる。
火・上級魔法の使い手が一人、戦闘系のスキルは剣術の下級を持っている。
身体強化スピード・中級魔法が一人、スキルは短剣術の上級持ちだ。
後の三人は一人目が弓術スキル・特級。
次は暗殺術の中級持ちで刹那というスキルも持っているらしい。
残りの一名はまだどういう能力があるのか掴めていない」
◇ ◇ ◇
ここは侯爵城の屋内にある訓練場だ。
模擬訓練でほとんど死ぬことはないと言われたはいえ緊張している。
まずは一対一で訓練を行う。
「私はこの地に逗留しているミックというものだが、些か戦闘に詳しいので今回指導及び審判を務める」
「よろしくお願いします」
俺は頭を下げた。
ミックの年齢は五十代ぐらいか、よくわからない。
盛り上がった肩に丸太のように太い腕、パンパンに張った太もも、かなり鍛えているのがわかる。
最初は魔法使いと対峙した。
「火と同じ者がいなかったので水系の魔法使いだが上級の使い手だ。
片手剣スキルの中級持ちだ。
では開始」
ミックが説明しそして合図をしてスタートした。
どこまで手の内を明かしていいものか。
侯爵側は良心的でこちらの能力を一切聞いてこない。
水の上級ね。
どの種類の魔法でも上級魔法は内唱に十二秒ほどかかるんだったな。
◇
この世界の魔法は音にしてはいけないのだ。
途端に術者が呼吸困難になる。
口パクも駄目だ。
あくまで心の中で唱える、内唱だけが大丈夫なのだ。
呪文内容を文字にしてもいけない。
やはり呼吸困難になる。
だから簡単に人から人へ伝授出来ない。
帝国が管理する七カ所の施設でのみ音声による伝授が出来る。
これにより魔法使いはすべて国が把握していることになる。
七カ所の施設を運営している魔法協会は莫大な利権の温床になっている。
ほとんど図書館情報だ。
◇
十二秒かかる前に倒せばいいと、俺は木棒を手にゆっくり対戦相手に近づいた。
相手の魔法使いは片手で細剣を握り構え体を揺らしている。
成る程、剣を構えながら内唱しているのか。
ある書物に書かれていたな。
難易度の高いテクニックだと。
距離が詰まったと思った途端、相手が踏み込んできた。
俺は迅速のスキルと前世で得た剣術スキルなどのおかげでなんなく避けたが内心ヒヤッとした。
「ほう、今のを避けたか。
たいしたもんだ。
だがわかっただろう。
内唱しているように見せかけて魔法以外で攻撃するケースもあるんだ」
ミックが大声で解説した。
また俺は木棒を構え相手を伺う。
ホントに内唱しているのか振りなのか判断できない。
が、一瞬で詰め寄った。
今度こそ一本取るぞ。
片手剣スキルの中級なんぞに遅れを取ってたまるか。
迫る前に相手の魔法使いの口角が僅かに上がった。
嫌な予感がして強引に向きを変えた。
奴から水が発射された。
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