第8話 奴隷からの脱却 2
今日は五月二十三日、六月十二日までまだ時間がある。
なんとか成功させねば。
そしたらどこかのお偉いさんに恩を売れていきなり貴族とかになれるかもしれないし。
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ここの領主は、普段話題にも出ない。
どういう立場なのだろうか。
隷属魔法の使い手である家令バーナードの主人にあたる存在だ。
◇
まずは現準伯爵を直接見に行くことにした。
準伯爵の位といえば押しも押されぬ中級貴族だ。
その上には同じ中級の伯爵、そして上級の侯爵と大公が存在するだけだ。
一般的に準伯爵だと年間二百億以上の税収があるといわれる。
奴隷が含まれる卑民の身分だと一生お近づきになれない雲の上の存在それが準伯爵だ。
しかし居城に忍び込んだ俺が見たのは、小さな部屋を宛がわれて軟禁されている領主の姿だった。
ドア横で立って観察してみる。
そこへちょうど家令のバーナードが護衛と共にやってきた。
「久しぶりだな、ジョンダン・パレッティ。
変わりないようでなによりだ」
「これは珍しい、何か御用ですかな」
「ああ、たまには領主として役立ってもらおうと思ってな」
領主に向かい、配下の者が言う言葉じゃないな。
この領主も隷属の魔法で支配されてるのか。
「はて主にとって私は邪魔でしかないのでは」
「生意気な態度、…… うん? そのぐらいでは呪いは発動しないのか。
まあいい、久しぶりに私から発動させよう」
数秒の間があり、領主はいきなり苦しみ出す。
死んだ方がましかと思えるぐらいのたうち回っている。
俺たちは自分で死を選ぶことも出来ない。
家令のクソヤロー許さない、必ず報いを受けさせてやる。
「お前には一芝居打ってもらおうと思ってね。
勇気の欠片もなくすぐ逃げ出したパレッティ本家をそろそろ片付けることにしたんだ。
どうしてかって?
実はこの領地からおさらばすることになってね。
後任の者が少しでも楽になるように憂いは取り除いておこうと」
痛みが収まった領主は家令バーナードを睨む。
すると今度は頭を抱えて苦しみ出した。
「私に憎しみを抱くと隷属の呪いが発動するって知ってるでしょ。
だのに
あんなやつら、本家とか言ったって偶々直系の血筋ってだけじゃないか。
逃げ出した準伯爵家の一族が首切り大公の庇護の下、その飛び地でぬくぬくと暮らしていることぐらいちゃんと掴んでるんだ。
だから全員ここへおびき寄せ始末するのさ。
その後はエテ侯爵を挟み撃ちしてここも含めて南部が治める。
どうだ、完璧なシナリオだろう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それで話は終わりか」
「はい、以上で終わりですが、出来れば」
俺は首切り大公の飛び地にいるパレッティ一族の主だった者らを訪ね、話をしている。
「まだ何かあるのか」
「私が隷属魔法の使い手を倒します」
高貴な方々の前では一人称俺は使わない。
「それはさっきも聞いたぞ」
「はい、その後は奴隷たちを速やかに解放して下さい」
「
「そのとおりですが、奴隷でなくなっても身分としては最下級の卑民のままなんです。
それでは先々何かと心配で」
「それは仕方ないだろう。
奴隷は卑民に属するのだから。
卑民として我々の領地で励めばよいではないか」
こいつらもう勝って支配者として返り咲くつもりでいるよ。
「そこをなんとか、せめて下民にして頂けたら」
「貴様、もうすぐ領主となる正しき血筋におねだりするとは。
この場で手打ちにしてやろうか」
こいつ、こっちが一人だからって脅してきやがった。
「そうですか、じゃあ今回の話はなかったってことで」
「なにぃ! 奴隷ごときが逆らうのか」
「いえいえ、私はバーナード及びビラステヤ大公派閥の罠があることをお知らせしました。
だから後は貴族様方でなんとかしてください」
交渉を黙って聞いていた青年が止めた。
「待ってくれ、奴隷全員を下民にすると約束しよう。
叔父上もその腹づもりではあったが、貴族ともなれば簡単に確約など出来ないのだ。
タウロとやら、それをわかってくれ。
その顔は、まだ信用しておらぬな」
俺は知らないうちに疑うような顔をしていたらしい。
「わかった。今ここで念書を書こう」
そして俺は念書を渡された。
「我々も急いで準備に取りかからねばならぬ。
もう下がってよいぞ」
◇
俺はその場から去る振りをして一時交換で手にしている隠密と元々のスキル忍道を使い天井裏に張り付いた。
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