第2話 今までお世話になったビサールたちへきっちりお礼をする
ビサールの目が鋭くなる。
「タウロの奴、頭打っておかしくなったんだな。
それでもまあいいだろう。
舐められるのは気に食わねえ。
さっきの五人でまた遊んでやれ。
ただし頭は狙うな」
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五人は頷くといつもよりゆっくりと近づいてきた。
今まで受けてきた数々の仕打ちを思うと、俺はこいつらを半殺しにしてやりたくなった。
日本では七十二まで生きてたのに血の気が多いな、自己反省。
もしかするともうすぐ十四才になる今世の若い自分に引っ張られてるのか。
まあいい。
俺たち奴隷は訓練で怪我を負わすぐらいはいいはずだが、殺意を持つと隷属の呪いが発動するように出来ている。
気をつけなきゃあ隷属魔法の呪いってハンパないんだよな。
考えてみると
あっやばい、こんなこと考えてると隷属魔法の呪いが発動するじゃないか。
慌てて頭を振ると
構えたが頭痛は起きない。ホッとした。
呪いは発動しなかったようだ。
誤魔化せたのか訂正が間に合ったのか、ホッとして口元を緩ませた。
五人の中の一人が飛びかかる。
「何笑ってんだ、舐めてんのか」
他の四人も慌てて飛びかかるが連携が取れてる訳ではない。
これじゃ素人に毛が生えた程度か。
今までの俺はこんな奴らに後れを取ってたのか。
俺は手加減しながら、五人の体に何度も木棒を当てた。
相手の攻撃をすべて躱しながら。
その間、俺の足元はまったく移動していない。
省エネということもあるが、圧倒的にこちらの方が腕が上だとわからせるためだ。
◇
前世では幾つかの流派の剣術や居合・格闘技・古武術を学んだ俺だが、名古屋で警護の仕事をしていた頃に、警棒をメインに用いていた。
傭兵を生業として世界を飛び回っていた時は一応どんな武器でも扱えるようなトレーニングもした。
その時に棒を使う武術も少し教わった。
だからか木棒を得物とすることに違和感はない。
いや、そうじゃなくてもしかしたらヴァネッサの指導のおかげか。
前世の記憶を取り戻した俺は、ヴァネッサの今までの指導、そして彼女の棒術のテクニックを深く理解している。
もうすぐ十四才になるボクちゃんだっただけの俺と、前世での様々な経験がある俺では理解力に差があるのは仕方ないな。
今の俺ってちょっとずるいか、あっこういうのをチートって言うんだっけ。
考え事しながら相手してたらいつの間にか相手は十二人になっていた。
思わず殺気を浴びせると相手の攻撃がそれだけで鈍くなる。
面倒になったので 全員の急所に木棒を当てていき 戦闘不能にした。
うん? ビサールだけいない。
あいつだけ逃げた?
いやそんなことはあり得ないだろう。
すると殺気を感じそれからすぐ矢が飛んできた。
充分殺傷力のある矢でこのまま だと俺の心臓に刺さるだろう。
落ち着いて瞬時に対応した。
木棒で打ち払うのもいいがそれじゃ面白くない。
矢をうまく手で掴む。
で弓を抱え走ってきたビサールに投げ返す。
残念ながら矢は当たらなかったが、ビサールは尻餅をついた。
そして 頭を押さえ 転げまわりだした。
ざまあみろ、俺を射殺そうとしたから隷属魔法の呪いが発動したようだ。
奴隷が主の持ち物である他の奴隷に対し殺意を抱くと呪いが発動するのだ。
奴隷同士の諍いの時に見たことがあるがこの時の呪いは長く続く。
主への愚痴を口に出したヴァネッサの時とは違い、今回は三十分ぐらい続くんじゃないだろうか。
◇ ◇ ◇
礼儀作法の指導が終わり、やっと今日一日が終わる。
俺は水場へ水浴びに向かった。
五月に入ったからそこまで寒くはないが、それでも冷たい水を浴びるだけなのは嫌だ。
ゆっくり風呂に入りたい。
そこへ人の気配を感じる。
相手は十人以上いるな。
近づくと相手がビサールとその子分連中だとわかる。
そう言えば俺はビサールに殺されそうになったんだな。
その結果あいつは隷属の呪いを受けた。
文字通り自業自得だ。
だが俺自身はまだ仕返しをしていない。
そして相手はまだ懲りてないようだからこの際トコトン〆てやるか。
こっちから仕掛ける。
素手だが問題ないだろう。
明日からの労働に支障がないように鼻だけ潰す。
薄暗い中での襲撃にみんな慌てるが次々に「ぐえっ」と言い顔を押さえて倒れこむ。
ボスであるビサールだけは気絶しないよう、目立った傷が残らないよう気を付けながら三十分ほど暴行をくわえた。
ビサールは地べたに頭をつけ泣きながらずっと同じことを言いながら俺に許しを請うている。
「済まない、悪かった。
許してくれ、殺さないでくれ」
「おい言い方が違うだろ?
もっと丁寧な言葉を使えよ」
「はい、申し訳ありませんでした。
俺が悪うございました。
もうタウロには手向かいしませんので」
「タウロだと。
呼び捨てか」
慌ててビサールは言い直す。
「タウロ様、あなた様には二度と逆らいませんので」
「それだけじゃ困る。
お前たち、俺だけじゃなくて他にも弱い者いじめをしていただろう。
もうそういうことはやめろ。
逆に弱い者やいじめられてる者がいたら助けるんだ。
そして今日からは全員俺の手下になれ」
「手下ですか?」
ビサールが戸惑ったような声色で問い返す。
彼の子分たちも震えながら俺を窺う。
「なーに普段は今までどおりビサールがまとめてりゃいいんだ。
何か頼みたいことがあった時だけ指示を出す。
かえってお前たちが俺の手下だと気づかれないようにしろよ。
今日のことも内緒だ」
全員何度も頷いた。
さっきから悪臭が漂い、俺の手下となった者たちの股間が濡れているようだが気にしないようにしよう。
とにかくスッキリした。
まあ俺もよく自殺しなかったなあ。
あっ自殺しかけた奴に対する隷属の呪いを見て自殺するのをあきらめたんだった。
というか奴隷が勝手に自殺とか出来ないような隷属魔法がかけられている。
◇ ◇ ◇
やっと雑魚部屋の自分の寝床に戻った。
この部屋は女性奴隷七人と成人前の男性五人が詰め込まれている。
ちなみにこの世界での成人は十五才だ。
もう寝てる者もいるから音を立てないよう自分の寝床に向かう。
「遅かったな、もしかするとビサールたちとなんかあったか?」
小声でヴァネッサは声をかけてきた。
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