第6話 ヤマトタケルとタチバナ姫

 相模の国造に罠にはめられたヤマトタケル様でしたが、咄嗟に機転を利かせピンチを逃れました。


 そしてどんどんと相模の国(神奈川県)を進軍していますが、早速、悪霊達と戦っていますね。


『悪霊A、悪霊B、悪霊Cが現れた。悪霊Bはヤマトタケルを呪った!』

『しかし、草薙の剣の加護により効果はなかった!』

『ヤマトタケルの攻撃! 敵全体に999999のダメージ! 悪霊達はこの世から消滅した!』

 

 うーん、やっぱりヤマトタケル様の実力も凄いですが、草薙の剣の力も凄まじいものがありますね。


「敵は倒したぞ! もう大丈夫だ」

 おや、ヤマトタケル様が誰か呼んでいますね? 

「きゃー、やっぱりヤマトタケルってすごーい」

 若くて可愛らしい女の子が物影から現れました。

「おい、弟橘姫オトタチバナヒメ。いきなり抱きつくな!」

「いいじゃん。私達、夫婦なんだから」


 神話の世界において、夫婦になる事=肉体関係を結ぶ事です。

 ヤマトタケル様は、ミヤズ姫という将来を誓いあった相手がいるのに、このタチバナ姫様という女神様と、いつの間にか合体していたようですね。

 孤独だった旅路にも可愛らしい女の子が現れて、花が咲いたような雰囲気になりましたね。


「まったく、タチバナ姫は困ったBabyちゃんだ。お仕置きが必要だ!」

「きゃー☆」

 って、ちょっとイチャイチャしすぎです。リア充爆発しろ! なんて言葉が飛んできそうですね。

 さて、タチバナ姫様の登場で殺伐とした東国遠征の旅も、なんだかデート感覚になって来ました。


 そしてヤマトタケル様とタチバナ姫様は湘南を越えて、三浦半島にやってきました。

 東京湾を挟んだ向こう側には、上総かずさの国(千葉県)から突き出た房総半島が見えます。

 

 現代なら東京湾アクアラインがありますが、神話の時代にはないので、三浦半島から房総半島へと渡るための船を用意ました。


 出航する二神は公園の池にボートに乗るカップルのようです。一部の人は『リア充、沈め!』と思っている事でしょうね。


 私達も、海へと繰り出したヤマトタケル様について行きましょう!



 デート感覚で出航したヤマトタケル様とタチバナ姫様でしたが、だんだんと海が荒れてきましたね。

 船も思うように進まなくなってしまいました。


『おのれ! 私の上でイチャイチャしやがって!』

 おや、海中から何か聞こえてきます。どうやら、この海峡をデート感覚で進んでいたら、海の神の怒りを買ってしまったようです。

 波は荒れ狂い、船は同じ所をぐるぐる回っています。コーヒーカップのように回されたからか、私も気分が悪くなってきました。


「くそ、上手く舵をとれない! 俺はなんとしても東国遠征を成功させたいのに!」

「ヤマトタケル、海の荒波を鎮めるには乙女の生贄が良いわ」

「タチバナ姫、何を言っているんだ!?」

「私が人身御供になって、海の神の怒りを鎮めるわ」

「それはダメだ! 僕はお前と離れたくない!」

「でも、東国遠征を成功させたいんでしょう?」

「そうだ! しかし……」

 タチバナ姫様を生贄にささげれば、海の神の怒りは鎮まるでしょう……しかし、愛いする妻を差し出す事は簡単に出来ません。

  

 ヤマトタケル様は難しい判断を迫られました。


「このままだと、船が沈むか、遠くに流されてしまうわ。お願い、ヤマトタケル。海に沈む許しをちょうだい」

「……わかった」

「ありがとう。貴方の為に死ねるなら私は本望よ。どうか、東国遠征を達成して、天皇にご報告してください」

 二神は船の上で抱きしめ、お互いの愛を確かめています。そして、抱擁のあとタチバナ姫様を船をから海へと身を投げ出しました。


 すると、荒れ狂っていた海は嘘のように穏やかになっていきました。


 こうして房総半島へと入ったヤマトタケル様ですが、その代償はあまりにも大きいものでした。

 タチバナ姫様を失った事は、歴戦の勇者でさえも心に大きなショックを与えたのか、海岸で落ち込んでいます。

 タチバナ姫様の事を心の底から愛していたのでしょうね……今はそっとしておきましょう。


 おや、海岸に何か流れ着きましたね。どうやらタチバナ姫様が身につけていた櫛のようです。

『ヤマトタケル、私は貴方に愛されて本当に幸せだったわ』

 櫛には、タチバナ姫様の魂が宿っています。それに気づいたヤマトタケルは、そっと櫛を手に取りました。


「相模の野原にて、貴女は火中にいる私に声をかけてくれました。その事は忘れません」

 ヤマトタケル様を詩を読み、亡き妻を弔ったのです。


【補足】

 タチバナ様とヤマトタケル様の出会いのお話は古事記には記されていません。

 ヤマトタケル様がタチバナ姫様へ読んだ、弔いの詩の内容から、相模の国造の火攻めにあった前に知り合っているのだと思います。

 この出来事はおそらく、ミヤズ姫様の家を去った後から、相模の国造と出会う間の事だと思われます。

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