25話:共闘
三本のポーションで強化された筋力でその大きな弓を引く。試しに術者に向けて放ってみたが、やはり
「ジーク君、大丈夫かね。」
術者に射線を通すために三体目のアースゴーレムの元へ駆け出そうとすると、ピアソンがこちらへ歩いてきた。野盗の対応が落ち着いてきたのだろうか、最初は騒がしかった金属同士がぶつかり合う音も気づくとだいぶ小さくなっていた。
「はい。でもあのアースゴーレムを操っている敵はまだ健在です。」
「なるほど。加勢しよう。」
ピアソンは腰から長剣を抜くと、構えるでもなく悠々とアースゴーレムに近づく。アースゴーレムはその巨大な腕をピアソンめがけて振り下ろすが、彼は剣の先端をそれにちょっと触れさせただけで機動をそらし、腕は真横の地面にめり込んだ。
「せっかくの大地人形も、三つもこさえると疲れが出てくるか?」
ピアソンはその反動を利用してアースゴーレムの腕へと飛び乗ると、そのまま腕を伝って首元まで駆け上がり、あっという間にアースゴーレムの首を切り落とした。しかも、見た限りでは、魔力による強化などは一切されていない。純粋な身体能力と技量のみでそれを成し遂げてしまった。土でできたアースゴーレムにとっては大した痛手ではなさそうだが、体を再構成するために動きを止めざるを得なかったようだ。
「今だっ!」
アースゴーレムが上手く動けない隙を狙って俺は術者目掛けて矢を射掛けるが、地面から持ち上がった土の壁に阻まれた。しかし、それは織り込み済みだ、向こうの営詠唱の声が届いてこないということは、こちらの声が聞こえないということでもある。術者の視界が塞がれているのなら、たっぷり準備ができる。
「風の精よ、この矢を届け給え、【
あの魔術師は土の魔術を得意としているようだが、風の魔術である【矢避け】を使えないとも限らない、念の為【追尾矢】を矢にかけておく。そしてもう一つ、重ねて矢に魔術をかける。
「風の精よ、我が矢を防風に乗せてあらゆるものを貫き給え、【
「貴様は!」
ガラガラと崩れ落ちる土壁とアースゴーレムの起こす土煙の向こうから現れたその姿は、強烈な矢の一撃に右腕を奪われ、膝をついたこの野営地の副官、ルビッツだった。普段は悠然として堂々としているピアソンですら驚いているようで、目を丸く見開いていた。
「貴様、裏切ったのか!」
「これは神の思し召しですよ。ピアソン騎士長。」
片腕を失ったとは思えないほど流暢にしゃべるルビッツは、血が滴る右腕を割いたマントで器用に縛ると、左腕で剣を抜いた。
「その子供は、後々大きな災いをもたらす尖兵であると。神からのお告げがあった。」
大量に血を流して、明らかに目から生気が失われているにも関わらず、ルビッツは片手で剣を構えると俺の方へ向けて走り出した。俺は咄嗟に矢を放つがルビッツはそれを見切って回避すると、あっという間に肉薄されてしまった。しかし、今度は横合いからピアソンが割り込んで、ルビッツの顎を剣の柄で殴りあげてのけぞった胴体を軽く小突くようにして押し倒し、その首に剣を突きつけた。
「神の思し召しだと?貴様いつから正教会に……いや、貴様、いつから女神教の信徒になった。」
ピアソンはルビッツの首元に輝く黄金の十字架に気づいたようでそれを問い詰めるが、先程まで機敏に動いていたにもかかわらず、急に顔からも生気が失われていき、ピアソンの問いに答えることなく気を失った。ピアソンは首元に手を当て脈を測っているようだったが、もう息絶えたようで、一つ大きく溜息を吐いた。
「これ以上は聞けそうにない。ジーク君。野盗はもう逃げ出したようだ。傷ついた兵の手当を……。」
俺はピアソンの言葉を最後まで聞けずに急激な脱力感と疲労感に襲われて意識を失った。
◆
目覚めるとそこは野営地のテントの中だった。外からは慌ただしい声が聞こえてくる。テントから顔を覗かせると、太陽はほぼ頭上に輝いており、聞こえてきた声は野営地の再建のために働く騎士団の声だった。
「あら、英雄のお目覚めよ。」
「やっと起きたか。無理しやがって。」
「ストレングス・ポーションを一気に三本も飲んだらそうなります。ほら、これ飲んで。」
テントの前にはデューターの一党が車座で焚き火を囲んでおり、俺はマリーから温めたお茶のカップを渡された。スタミナ・ポーションが混ぜられているのだろうか、一口飲むと力が湧いてくるようだった。
「それで、大地人形を一体単独で倒したんだって?」
「うん。でもこの剣のおかげだから……。」
グスタフは興味深そうに俺の戦果について聞いてくるが、俺が剣の話を出したら、納得と諦めが混ざったような表情で唸り声を上げていた。例えるならあの剣ならやれかねないと言った様子だ。
「では、剣にふさわしい使い手になるべく精進すればいい。」
俺たちの話を聞いていたのか、ピアソンが輪に混ざってきた。昨日、アースゴーレムを相手取っていたときよりもずっと疲れているように見えた。マリーがお茶を渡すと一つ礼を言ってから一気に飲み干した。
「剣を信頼する限り、剣はそれに応えてくれる。だからこそ、使い手は剣にふさわしい存在で有り続けなければならない。」
そう言うとピアソンは腰に帯びていた長剣を抜くと俺に差し出してきた。
「これを貸しておこう。まずはこの剣にふさわしいと思える剣士になりなさい。」
俺はピアソンからその長剣を受け取った。その剣は見た目よりもずっと、ずっと重たく感じた。
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