21話:騎士ピアソン
「こんなやつがなにか狙ってたんだ、なにかあるかもしれない。よく探すぞ!」
ローブの魔術師を縛り上げて魔術を使えないように猿轡を噛ませてから大部屋の探索を開始する。死霊術のような生命や魂を冒涜するような魔術は言わずもがな禁術であり、その知識を探求することは重罪だ。そんな重罪人が潜んでいた、もしくは何かを求めてきたであろう場所になにもないとは考えにくい。俺たちはこの部屋を隅々まで探索することにした。
「グスタフ。流石にそこにはなにもないと思うぞ。」
「いや、掘ってみないとわからないだろ!」
グスタフは何故か先程打ち付けられて砕けた石畳の下を掘り起こしているが、出てくるのは岩や土だけのようで、デューターに呆れられているようだった。確かに床下に隠された部屋があるというのは否定できないが、そんな物があるとしたらグスタフは床を突き抜けてそこに落ちていただろう。
俺は魔力を限界近くまで消費していたため少し体が重かったが、
「レオン!」
「どうした?」
「あの鍵貸してくれ。」
「うん。」
レオンから隠し部屋で見つけた鍵を受け取ると、見つけた穴に鍵を差し込んで回してみる。何かが噛み合ったようなカチリという音がして、大きな地鳴りの音とともに、隠し通路が口を開けた。
「グスタフ、もう掘らなくていいぞ。」
「あ、あぁ。そのようだな……。」
◆
短い通路を抜けると、その先には小さな部屋があった。6人全員入ると少し狭いその部屋の中央には祭壇のようなものが備えられており、そこには柄頭に真紅の魔石が嵌め込めれた長剣が突き刺さっていた。魔術特有の光をまとっているようで、刀身は熱した鉄のように光って見えた。
「まるでカリバーンの伝説みたいだな。」
「試してみるか?勇者よ。」
軽口を叩いてグスタフが剣を取ろうとするが、不可思議なことに掴もうとした手はその柄をすり抜けてしまった。
「こりゃあ魔術どころか本当に魔法武器の類だな。」
「どういうことですか?」
「カリバーンの伝説にあるように、持ったものの未来を決定づけるような力を持った『古の神』が作ったと言われる武器だ。その力もそうだが、生涯を通して武器に記された義務を果たす必要があるから、資格ないものは触れることすらも許されない。」
「それでいて切るときはしっかり切れるから理不尽だよな。」
そう言って今度はデューターが柄を握ろうとするが、先程のグスタフと同様、柄をすり抜ける結果に終わった。
「あら、これ刀身になにか書かれてるじゃないの。」
「この文字は……古代の魔術言語に見えますね。」
刀身の文字に気づいたアンナは鞄から古そうな装丁の本を取り出すと。刀身の文字と照らし合わせて何かを知らえていることから、おそらく辞書のようなものらしい。
「えーっと、汝………この……剣……握る……ならば……英雄………なる、の命令系かな。」
「汝、この剣を握らば、即ち英雄となるべしってところか?」
「たぶんそういう意味合いだと思う。」
英雄という言葉に目ざとく反応していた俺の様子に気づいたレオンは「試してみる?」と聞いてくるので、俺は迷いなく頷いて、その柄に手をかけた。
◆
気がつくと、俺は真っ白な空間にいた。俺は、この世界に来る前に一度訪れた場所だと、魂で理解した。
「君が来てくれてよかった。」
俺の前には、こちらに背中を向けた紳士服の老人がそこにいた。いつか見たような気がしたが、俺はなぜかそれを思い出せなかった。
「本当は、君を送ること自体がほとんどイレギュラーな行為だが、この世界のためにも必要なことなのだ。」
俺は声も出せず、ろくに動くことも出来なかった。
「10年後、世界を脅かす脅威が現れる。だが、私はそれに対しこれ以上の介入はできそうにない。君のその正義の暴走は、思い起こされた記憶と仲間たちが止めてくれるだろう。」
老人はこちらを振り返り、被っていた帽子を脱いで、それ胸に当てて頭を下げた。
「これは、お願いだ。私にはもう、君を導く力もない。」
「あなたは……」
俺は声を出せることに初めて気づいた。同時に体を動かすことも出来るようだった。
「君を排除する悪意が働いている。恐らく10年後の侵攻の障害となる君をね。使徒を遣わせておいてよかった……。」
「使徒?」
「あぁ、そうだ。もう語りかけるのも限界だ。すまないな。君の人生を縛りたくはなかった。」
◆
気づくと俺は元の祭壇へ戻っていた。周囲を見回してみるが、特に時間が経過しているわけではないようで、健の柄を握った俺を、皆が眼を丸くして見ていた。レオンだけが、俺を期待するような目で見ていた。
俺はそのまま力を込めると剣は台座から引き抜かれ、台座はそのまま光のように霧散し、刀身にまとわりつくようにして鞘へと変化した。
「…………とりあえず。帰ったらギルドに報告だな。」
「よし!帰ったら剣術の修行だな!」
俺は黒い鞘に収められた剣を強く握った。あの光景は一瞬の幻影かもしれないが、俺はきっとあの人からこの剣を託されたんだと思った。俺はポーチから細いロープを取り出すと鞘に付けられたリングにくくりつけて背負うようにして装備した。
「グスタフはそれで良いの?」
「まぁ、とりあえずどうするにしてもジーク以外が触れないんじゃあな。」
「それに、
「そうだな。」
◆
俺たちが遺跡を出ると、日はすでに落ちており、町には明かりが灯っていた。俺たちは初めての冒険らしい冒険を終えた。はやく宿に帰って眠りたくなるほど疲れていた。
「よし、さっさと帰ろう。コイツも衛兵に突き出さなきゃならんしな。」
グスタフはまだ気を失っている魔術師を担いでいた。まだ生きている以上、情報を聞き出さなければならない。幸い町まではほど近いが、他に仲間がいるかも知れない。魔力は遊撃していたデューター以外は結構消耗しているので今魔術師に襲われたらひとたまりもないだろう。デューターはダンジョン内と同様、隊列の一番うしろから周囲を警戒していた。俺も魔力視で周囲を見渡すが、今のところは魔術で隠れている様子もなかった。
「おい、なに隠れてるんだ?」
「遺跡の帰りだろ?このまま帰りたきゃ、戦利品をすこしばかり恵んでくれよ。」
ふとグスタフが足を止めて低い声色で語りかけた。すると、木々の影から明らかに堅気でない連中がぞろぞろと現れた。それは昨日の昼間、グスタフとデューターが伸したチンピラ崩れの冒険者のようだった。俺たちは咄嗟に武器を構えたが、今度はこちらに向かって走ってくるブルホースの蹄の音が響いてくる。
「失礼する。この先がヴェーツェで間違いないかね?」
「なんだ?てめぇ。」
純白の鎧に身を包んだ、口元に髭を蓄えた男性は後ろに同じ意匠の鎧の兵士を従えていた。その姿はまさに熟達した壮年の騎士だった。
「私はピアソン、見ての通り、アルペンハイム辺境伯に仕える騎士だ。」
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