19話:さらに、さらに深くへ
「うーん………」
「どうした?」
扉を前にして考え込む俺たちにグスタフの折檻を終えたデューターが合流した。少なくともグスタフの外見的に異常は見られないが何やら疲労困憊の様子でレオンがスタミナポーションを手渡していた。
「いや、やけに厳重な罠と魔術で防護されてたんだけど。」
「入ってたのはこの鍵だけだったのよね。」
アンナはつまみ上げた金属製の鍵を揺らした。白銀色のそれは異様に精巧な装飾が施されており。ソレだけで値打ちのある品だということが分かる。
「いいじゃないか!どこかに鍵のかかった部屋があるんじゃないのか?レオン。どうだ?」
当然、鍵には相方となる錠前や鍵穴がある。この鍵だって例外ではないだろう。貴族の屋敷ならともかく、遺跡に封印されているものが道楽で造られた鍵だとはとても考えられない。しかし……
「いえ、もらってる地図にはそれらしい部屋も書かれてなくて……。」
「他にも隠し部屋があるってことか……。」
それを伝えたデューターの声色が芳しくない。バランスの良い一党ではあるが、俺の
「まぁ、気にしても仕方ない。一応鍵は持っていこう。」
一応鍵はレオンが預かることになり、鞄にしまい込んでいた。それよりも気になることが会った俺は、今まで黙りこくって口を開かないグスタフと目を合わせた。
「で、いくらしたの?」
「…………金貨10枚。」
それを横で聞いていたアンナとマリーは無表情のままグスタフの頬に拳をめり込ませていた。俺はそれを可愛そうな、それでいて救いようのないものを見る目で見ていた。
「ジーク、その眼は効くからやめてくれ……。」
◆
「どうだ?変わったものはあるか?」
「今のところはなにも。レオン、地図と違うところはあるか?」
「いや、見る感じだと地図通り。」
俺たちは一度引き返して、分岐路の反対側を進んでいた。たまにゴブリンが仕掛けたらしい粗雑な罠はあるが、特に他に変わったものはない。一度地図が造られているので驚異になるのは魔物くらいのものだろう。瘴気に満ちた遺跡の中だけあって、出会う生き物は全てが瘴気の影響を受けて見にくくいびつに歪んだ魔物だけだ。
「前方、ゴブリンが一匹、斥候か哨戒かも。」
「後ろは固めてある、仕留めちまえ。」
「うん。」
弓を構え矢を番えると、こちらに気づいた様子のゴブリンが声を上げないように喉物を狙い撃ち、すかさず頭蓋を貫いてとどめを刺した。後続が無いのを確認して突き刺さった矢を引き抜いて矢筒に戻した。
「容赦ないな……。」
「え?」
「いや、先に進もうぜ。」
よくわからないが、魔物は危険な存在だ。確実に息の根を止められるような攻撃を心がけるべきだろう。
◆
道中は大したことも隠し部屋のようなものも結局見当たらなかった。魔物はいたが、最初のように【
「さて、どうなってる?」
「なんかでかいのいるように見えるんだけど?」
「殆どはゴブリンだが、ありゃあ
「どうやって入ったんだ?どう見ても入り口よりでかいぞ。」
「入ってから大きくなったんでしょう。」
トロル、身の丈4mはある巨体にそれ以上に横に太い体躯の魔物だ。毛深い体に、長くだらんとたれた腕はどことなくオランウータンに似ている。木の幹をそのまま削り出したような棍棒の乱雑に手折った枝の残りは、明らかに殺傷力を持たせるためにわざと残されているとしか思えない。森でゴブリンが狩ってきたと思しきウォートホッグを片手で貪るように食べていた。
「よし、手持ちの魔力はどれくらいだ?俺とグスタフは満タンにある。」
「俺はトロルに専念したい、魔力は全部防御に回す。雑魚はデューターに任せたいな。」
「私は【閃光】を結構使ったから大技は厳しいわよ?全員分の【
「あ、僕は今日一度も魔術を使ってないので【
「俺が使ったのは【罠探知】だけだから戦闘用のやつは全部使えるけど、【
「私はずっと【
その後もしばらく作戦を話し合い、俺たちは大部屋に踏み込む準備を整えた。改めて弓の張り具合を確かめ、鏃に汚れや欠けがないかを念入りに確かめる。デューター質も武器を確かめたり、魔力を回復するためにポーションを飲んだり鞄の道具を確かめたりしている。
「よし、俺が先行する。行くぞっ!」
グスタフの掛け声とともに扉を蹴破り、俺たちはなだれ込むように部屋に突入した。
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