18話:さらに深くへ
部屋に踏み込むと、一応周囲を見渡して【
「さすがに、こんな浅い場所にお宝もなにもないか。」
あるのは森で仕留めてきたらしいラビットの食い散らかしだけ。子鬼が装備してた武器も農具やナイフを乱暴に
「そう言えば子鬼ってどんな元はどんな生き物なんですか?」
「すごい小柄な狩猟民族って感じだな。簡単な道具くらいは作れるし、森の中に小さな村を築いてることだってある。こっちから手を出さない限りは大人しいんだが、魔物化すると武器や雑だが戦術を使うから侮れないな。幸い力も
レオンとデューターの会話を記憶しながら部屋を探っていると、石壁の一部の作りが緩いような気がした。後から石レンガをはめ込んだようで、ちょうど人一人分が通れる扉くらいの大きさがありそうだ。
「グスタフさん!ここ!」
一党の中で一番力が強いグスタフを呼ぶ。血糊のついた剣の手入れをしていたグスタフは、それを鞘にしまうと、俺の指差す壁を見てその顔を獰猛に歪ませて笑った。
「まかせとけ!」
そう言うと石壁から距離をとって調子を確かめるように何度か細かく跳躍すると、一つ行きを短く吐いてウォートホッグも裸足で逃げ出すようなタックルを石壁に叩き込んだ。グスタフは壁にめり込むように石変えが崩れて舞い上がったホコリの中に消えるが、すぐにそれも晴れて、封鎖された通路が口を開けた。
「どうする?デューター。」
「決まってるだろ。これだから冒険者はやめられないんだ。」
マリーとアンナもそれに同意するかのようにワクワクした笑顔を浮かべている。俺たちは顔を見合わせてうなずき合い、通路へと足を踏み入れる。先頭はもちろん俺だ。罠を探りながら少しずつ進んでいくが、そこまで長い道ではなく、左右や奥の扉がすべて見渡せる。
「レオン、雑でもいいから大まかな形は書き込んでおけよ。」
「はい。」
「それにしてもこんなところがまだ隠れてるなんてね。」
「あんまり探索が進んでない遺跡なんでしょうか……。」
隠し通路、というよりも隠し部屋の扉の罠を確認して開くが、そこにはなにもない。この通路を見つけたときのような塞がれた痕跡もなかった。よく考えれば、もう必要がないから塞いだのではないだろうかという疑問が浮かんでくる。
「こういう塞がれた場所って何か見つかることあるんですか?」
「あぁ、昔は戦の際に宝を全て持ち出せなかったときに宝物庫の入り口を塞いで隠すことが多かったらしい。ま、気を取り直して次の部屋を見てみよう。」
次の扉を見てみるが、罠そ探知するまでもなく、俺の
「なにか魔術がかかってるみたいだ。罠かもしれない。」
「だったら私の出番ね、見てなさい。」
マリーは一歩前へ踏み出すと、杖の先端を扉に向けた。
「光の精よ、このものにかけられた戒めを解き放ち給え【
マリーの持つ杖から光が迸り、扉にまとわりついた紫色の魔力が霧散するように飛び散った。【罠探知】や魔力視に引っかかるようなものもない。ただし物理的な鍵がかかっているようで、鍵開けが出来ない俺に変わってグスタフに蹴破った。そこには木製の箱がいくつか残っていた。
「さて、何が入ってるかな。ジーク、なにか見えるか?」
「罠とか魔力とかはなにも見えない。多分大丈夫。」
「でも物理的な鍵がかかっているかもしれませんね。」
「じゃあ、こじ開けるに限るな。」
デューターは腰から短剣を引き抜くと、木箱の蓋の隙間に突き刺し、その柄を上から踏みつけるようにして、てこの原理で蓋の鍵を破壊した。その中にはなにかの石がたっぷりと詰め込まれていた、パット見ではなんの変哲もない石ころだが、『目』を凝らしてみると、うっすらと魔力が宿っているのがわかった。
「なんだこれ?石か?」
「でも魔力を込められてるのかな。薄っすらと光ってるように見える。」
「魔力の原石かも、1個ちょうだい。」
アンナに促されて箱の中の石を一つ渡すと、アンナはかばんの中からノミと金槌を取り出して石を叩き割った。きれいに半分になったその断面は、まるで宝石のように輝かしいオレンジ色を放っていた。
「やっぱり魔石ね、この質でこの量だと金貨100枚は下らないわ!しばらく遊んで暮らせそうね。」
「でもどうやって運ぶんですか?いくら6人いてもこの量は厳しいですよ……」
魔石のたっぷり詰まった箱が4箱、一つの重さはかるく50kgを超えるだろう。運べないこともないが、街まで運び続けるのは流石に厳しいものがある。しかし、グスタフはこんな事もあろうかと、と腰に下げていた革袋を見せびらかすように掲げる。
「何だそれ。」
しかし、グスタフの自慢げな表情とは裏腹にデューター達の反応はよろしくない、みてくれはなんの変哲もない革袋だからだ。俺一応魔力視でなんらかの魔術がかけられていることはわかるが、やはりただの革袋にしか見えない。
「魔術師ギルドに立ち寄ったときに借りてきた。これは見た目よりも中身が『広い』魔道具でな。この通り!」
そう言ってグスタフが革袋に手を突っ込んで取り出したのは明らかに革袋のサイズよりも大きい、予備の剣だった。昔やったRPGにあった、袋のように見た目以上に中にたっぷりと物が入る魔法の袋のようだった。
「これがあればいくらでも持ち運べる…はずだ。」
あきらかに胡散臭いものを見る一党の視線に言葉は尻すぼみになっていくが、グスタフはそれを証明するとばかりに次々と袋に魔石を詰め込んでいく、流石に袋の口よりも大きいもの入れられないようだが、木箱は空に近づいていくのに袋は全く膨れる様子を見せない。
「へぇ、便利なもんだ、それで、コレいくらした?」
デューターの言葉にグスタフが手を止めた。いつも自信たっぷりな態度を崩さないグスタフが顔を強張らせて冷や汗を流している。デューターはグスタフの方に手をかけてにこやかに笑っている。
「まぁ、相談がなかったんだからそんな高いものじゃないだろうけど、念の為な?いくらした?」
「そ、それはだな……さきに奥の部屋の確認もしないか?」
デューターは張り付いたような笑顔をこちらに向けると、そのまま厳かに告げた。俺はいつか見た映画の死刑宣告を思い出した。
「奥の部屋を見てきてくれるか。俺たちは2人で話がしたい。」
俺たちは縋るようなグスタフを無視してさっさと部屋をあとにした。アンナの溜息をグスタフの痛ましい嘆きがかき消していた。
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