17話:いざ、ダンジョンへ
一騒動の後、町で準備を整えた俺たちは一晩ギルドの宿で休んだ後、朝早くから
「武器、サビなし、欠けも曲がりもなし、よし。盾もサビもヘコみもなし、よし。防具……留め金、ヘコみもない、よし。薬品……よし。よぉし!俺は大丈夫だ!」
「防具は念入りに見ておけ、戦ってる最中に外れるなんて笑い話にもならないからな。弓に関しては俺らは素人だからアドバイスは出来ない。わるいな。」
「大丈夫、父さんに耳にタコが出来るくらい聞いたから。」
「タコ?面白い言い方をするな。」
そうか、「耳にタコが出来る」は地球の慣用句だった。でも意図は通じたので良かった。帯の結び目を固結びでしっかり止める。後で脱ぐ時に面倒だが、脱ぎやすさを優先して戦闘中に脱げるのではデューターの言うように笑い話にもならない。弓は張り具合を確かめて背負い、矢筒の位置を確かめる。数もしっかり覚えて置かなければならない。夢中で射って矢がなくなったのに気づかないなんてヘマはしたくない。
「レオン、ポーションの瓶は割れやすいから飲み口以外は布かなんかで包んでおくといいわ。ただ、見分けがつかなくなるから、見た目じゃなくて入れた場所を覚えるのよ。」
「はい。一応鞄の中を綿で仕切ってみたんで、多分大丈夫だと思います。」
「あら、いいわね。レオンも器用じゃない。」
「縫い物は母さんが教えてくれたんで、これくらいはできます。」
レオンの方もしっかりと準備を終えたようで鞄の蓋を締めるが、咄嗟に取り出せるようにか留め金までは止めてない。人攫いの一件の後に制作した杖をしっかり握りしめている。
「よし、突入準備、マリー、魔術頼む。」
「はい!光の精よ、我らに闇を見通す眼を与え給え、【
マリーの周囲に光のドームが形成される。と言ってもそう見えてるのは俺だけだが。このドーム内にいればあの瘴気にも耐えられるらしい。【暗視】は一時的に闇の中でも見通せるようになる魔術のようで、さっきまでは暗く見えていた遺跡も置くまではっきりと見通せる。
「よし、それじゃあ突入するぞ。隊列は前に話し合ったとおり、ジーク、グスタフ、レオン、アンナ、マリー、そして殿が俺だ。ジーク、危険を感じたらすぐに下がるんだぞ。グスタフはいつでも前に出れるようにな。」
「わかってる。ジークも無理するなよ。
「うん、じゃあ、行きます。光の精よ、我が行く手を遮らんとするものを浮かび上がらせ給え【
とりあえず見れる範囲には罠は無いようだが、念の為俺が先導する。真っ暗なはずなのに、魔術の効果で不思議と明るく見える遺跡を奥へ奥へと進んでいく。罠は今のところ見当たらないし、
「分かれ道だ。レオン、この先はどうなってる?」
「えーっと右が行き止まりで部屋になってるみたい。どっちに進む?」
「右だな、先に潰してしまおう。」
「そうね、見落としがあると嫌だし。」
「わかった。」
先に行き止まりを潰す方針で行くらしい。右の通路を暫く進むと、足元にまっすぐ横に伸びた光が見えた。恐らく【罠探知】の効果によるものだろう。何かの罠が仕掛けられているようだ。俺はすかさず皆に報告する。
「ここに足元に細い紐が張られてる。たぶん罠だと思う。」
「解除できそうか?」
「やってみる。」
俺は【罠探知】の効果により光る紐を目で追うと、それは天井に繋がっている。天井には紐が切れるとブランコのようスイングしてに落ちてくるように仕掛けられたトゲ付きの板があった。紐を掴んでから切断し、ゆっくりと罠を下ろす。天井にロープで繋がれてるが、俺の新調では届きそうにない。
「天井のロープは俺の槍で切っとくから、先に進もうか。」
もはや天井からぶら下がる悪趣味な飾りとなった罠を避けて先へ進む、その先は部屋までは特に罠も無いようだが、部屋に入る前に一度グスタフが前に出ることになった。扉をほんの少し開けて中を覗き込むと、そこには子供のような体格で頭でっかちな異形の人型がなにか群がっているようだった。
「なんか居るな。魔物、
「魔物!?」
魔物と聞いて俺は村を襲ったあのウォートホッグを思い出した。レオンの方を見るとあからさまに顔が青いのがわかる。まだ俺たちの中には魔物に対しての恐怖が燻っていた。
「大丈夫だ、ただ突進するだけのウォートホッグ1頭でも無傷で半分は蹴散らせる程度の強さしか無い。」
わかるような、わからないような例えを受けて、俺はすこしばかり自身が出てきた。
「アンナは【
デューターの簡単な指示を聞いてお互い顔を見合わせて頷くとグスタフは豪快に部屋の扉を蹴破った。
「光の精よ、この場に眩いばかりの星を顕現させ給え、【
杖の先から放たれた閃光が部屋を包み込むと子鬼は眼を抑えて倒れ込む、こちらに背を向けていたため【閃光】が十分に効いていであろう子鬼を狙って矢を放つ。1体は脳天に
これで残り8、左右から回り込むように走るグスタフとデューターが飛びかかり、やりの薙ぎ払いで3匹の子鬼が吹き飛び壁に叩きつけられ、グスタフが1匹の子鬼を袈裟斬りにし、重量を乗せたシールドバッシュでもう一匹の子鬼を押しつぶした。
残り3、一瞬で半数以上の同族を失った子鬼は混乱を隠せないようで武器を拾うがそれ以上のことは出来ない。俺の放った3射目がうろたえる子鬼の頭蓋を貫き、残った二匹は果敢にもデューターに襲いかかるが、槍のリーチの差を覆せず、穂先で切り裂かれ、石づきで打ち砕かれ動きを止めた。
それは1分にも満たない時間だった。10匹いた子鬼はすでにどれも息絶えて、念の為警戒するが、俺たち意外に動く気配はなかった。
「な、子鬼程度ならなんとかなるだろ?だが、油断はするなよ。」
「初めてなのにやるじゃない。さ、この部屋の探索しましょ。」
弱い魔物だったのだろうが未だ緊張の抜けない俺たちの頭をアンナがくしゃくしゃと撫でる。俺はともかく、初めて魔物を倒したレオンは複雑そうな表情で俺を見ていた。
「やった、やったんだね。」
「あぁ、やった。」
レオンは俺の同意でやっと緊張の糸が切れた様子で、風と大きく息を吐いた。とりあえず、この部屋を探索しよう。
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