10話:魔女との邂逅
あの出来のあと、俺たちはギルドの食堂に集まっていた。周知と共有と対策はこの世界においても重要なことだ。ちょうどデューターの
「と、いう感じだ。」
「街の近くだから盗賊ってことはないわね。」
「そうですね。噂も聴きませんし……。」
「だとすると、人さらいかもしれねぇな。」
グスタフは何やら心当たりがあるのか無精髭の生えた顎を撫でながらそんなことを口にする。そして俺の方に視線を移した。
「昨日も言ったがこのへんじゃあお前のような赤い髪は珍しい、顔も悪くない。だから欲しがるやつははっきり言っていくらでもいる。」
俺は昨日の値踏みされるような視線を思い出し身震いした。俺は昔ゲームの影響でそういった人を助け出したいと思ったことはあるが、その対象に自分が選ばれるなんて思いもしなかった。
「だが人の売買は禁止されているだろう。」
「表向きは、ね。取り繕う手段なんていくらでもあるから。罪人ってことにして奴隷に仕立て上げられればどうしようもないわ。」
俺はダミアンのことを思い出した。昔盗みで捕まって農奴になったと言っていた。そういうふうにして罪人にしててあげれば奴隷として人を売買できるようになるということだろうか。
「かといって食い扶持のためにも引きこもらせるわけにも行かないしな。しばらくは教導役が二人で回ったほうがいいだろう。」
「賛成だ、
とりあえず簡単にだが今後の方針は決まった。俺とレオン、グスタフ、マリーの4人で仮に
「よし、早速装備を整えに行くぞ!」
装備を整えるために資金稼ぎをしようと言っていたのにグスタフは俺の襟首をひっつかむようにしてギルドの倉庫の受付に向かう。装備の予備なんかを保管する場所がない冒険者向けに貸し出されており、父さんの弓も預かってもらっている。グスタフはそこから予備の剣等をまとめると善は急げと言わんばかりにギルドを後にした。まるで台風のような勢いのグスタフに振り回されて俺たちはともかく普段一緒に行動しているはずのマリーまでもが目を回す直前に思える始末だ。
ギルドを出ると、マリーの静止も聞かずに路地をずんずん進んでいくと、少し人気がなくなった場所でピタリと止まった。
「もう、待ってくださいって言ってるじゃないですか、鍛冶屋も装備屋もコッチじゃないですよ!」
「マリー、【
先程の雰囲気とは打って変わった様子のグスタフになにか感じるところがあったのだろうか、マリーはそれ以上追求することはなかった。
「風の精よ、悪しきものから我らを隠したまえ、【
すると【矢避け《ディフレクト・ミサイル》】と同じようにマリーを中心に緑色のドームが展開される。グスタフは周りを見回して年のため少し大きな音を立ててそれに気づくものがいないのを確認するとようやく声を出した。
「よし、ジーク。なにかに付けられてる様子とかは無いか?」
グスタフは何かを警戒しているのかそういったことをまっさきに俺に聞いてきた。真剣な様子なので恐らく大事なことなのだろう。俺は正直に答える。頼りにされるのは悪い気分ではない。
「たぶん大丈夫だけど、魔術とかで隠れられてるとか、遠くを見る魔術みたいなので見られてるとかだと自信がない。」
「そうか、よし。じゃあ早速本題だが、今回の件、ギルド内部の人間が関わってるかもしれない。だから急いで出てきた。」
俺はピンと来なかったが、レオンはなにか思いついたようだった。
「あぁ、そうか。僕たちがどこへ行くかはギルド内での動きを見てないとわからないからか。」
「そうだ、行き先はある程度絞れはするが、その全てで待ち伏せるには人手がかかりすぎるからな。ギルド内で覗き見するほうが安上がりだ。」
ということはギルドから依頼を受けるたびに待ち伏せを受ける可能性がある。故に早く装備を整えて襲撃に備える必要がある。それこそ蓄えを削ってでも、だ。俺は最悪弓を自作すればいいが、レオンには何らかの装備を用意しなければならない。
「襲撃に備えてレオンの武器も整えておかないと……。」
「いや、お前もだ、ジーク。一番目立つのはお前の髪だ。だからフードか何かを見繕っておこう。」
そういえば人攫いの目標は俺の可能性が高いという話をしたばかりだった。俺は自分が標的にされているという自覚をいい加減持つべきだと思う。周りを助けるという思いは強いが、周りから助けてもらうと立場にもなりうるという考えが、俺には致命的にかけていることを常に自覚しておかなければならない。
「あ、あの……。」
そんな事を考えていると今まで会話に混じってこなかったマリーが初めて声を出した。
「これ、結構魔力使うので、そろそろ解いてもいいですか?」
グスタフは自分が指示したのにすっかりと忘れていたようだった。少々目をそらし気味に頷くと、緑のドームは空気に溶け込むように消失した。マリーは露骨にため息を付いてみせた。
「装備もそうですが、まずは魔術師ギルドに行きましょう。レオンくんの術具用の魔石を調達しないと。」
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「うわぁ……」
魔術師ギルドはその名の通り、魔術の研究の効率化のために設立されたギルドで、もとは霊殿から派生したものらしい。同時に薬品の調合なども行っているようで、建物の外からでもひどい臭いがする。鼻につく薬品の臭いを香炉の臭いで無理やりかき消したような、甘ったるい刺激臭という半ば矛盾したものが辺りに漂っている。この周辺だけ人通りが少ないのは気のせいではないだろう。正直用事があっても近寄りたくない。建物自体も混在した魔力のせいか虹色のオーラに包まれている。
「よ、よし、行こう!」
レオンは自分のためにわざわざ足を運んだのだというおもいからちょっとヤケになっているようだった。ここまで来たら俺も最後まで付き合おうと思う。マリーは慣れているようだが、グスタフは露骨に顔が青い。
「臭いを封じる魔術とか……ないか?」
「ありますけど魔力使いますから。」
そしてマリーは先程のことを根に持っているようだった。しばらく見つめ合っていたがグスタフは根負けしたようでお手上げだというふうに両手をあげる。扉をくぐるとその臭いは一層強くなり、頭をガツンと殴りつけられるようだった。閉め切っているためか中は暗く、魔力の薄明かりで内部を照らしているようだ。このひどい臭いにも関わらず、その中は人で賑わっている。その中央の受付でなにか話し合っている様子の女性がこちらの様子を二度見するようにしてからこちらへ近づいてきた。
「あら、初めて見る子ネ。珍しい色の髪。」
美しいが、年齢を読めないような女性だった。深い藍色の髪はこの街に来てから初めて見る色だった。俺が人のことは言えないけれど。
「炎人族が混じってるのネ。ちょっとその髪もらってもいい?」
「
藍色の髪の女性、魔術師ギルドの代表と呼ばれた女性は俺の前にしゃがみ込むと俺の頬に手を添えて瞳を覗き込むように顔を近づける。香水か何かの甘ったるい匂いが部屋の匂いに混じって気を失いそうだ。マリーが静止してくれたおかげで俺はなんとか気を失わずに済んだ。
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