2章:駆け出し冒険者編
悪意の矛先
9話:冒険と襲撃
冒険者になった次の日、俺、レオン、デューターの3人は
「なにから探す?毒消しとかかな。」
「ギルドで見た感じだと司祭様みたいな格好の人は少なかったし。切り傷なんかを治す軟膏がいいんじゃないかな。」
「だったらアーリエ、クラウン草、シラクサ、あとはキレミトの実あたりを探していこう。」
「いや、キレミトはもっと森の奥に行かなきゃいけないから、3つだけにしよう。」
基本的に目標も俺とレオンだけで相談する。俺たちは成人扱いになる15歳までには独立したいと考えていた。そのため、自分たちでできることは最大限自力で行うことにした。薬草、と一口に言っても効能や使用法などが変わってくるので、とりあえず切り傷や擦り傷などの外傷に効く軟膏の素材となる薬草を集めることにした。たまにちらりとデューターの方を見やるとなにやら感心した様子でこちらを観察しているようだった。
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正直、ここまでしっかりしている子どもたちだと思わなかった。親父の仕事を継ぐのが嫌で村を飛び出してきた俺とは大違いだ。俺が冒険者になって最初の依頼も薬草の採取だったが、そもそもどれが薬草なのかすらわからずに早速教導役の冒険者に助言を求めていたことを思い出した。アーデムさんの息子のジークはあの人の言うことをよく聞いて育ったのだろう。猟師としての技能をしっかりと受け継いでおり、薬草が自生している場所もよく知っているようで、キョロキョロと周囲を見渡してから迷うことなく薬草のある場所へと向かっている。一方レオンは周囲の観察や危機管理を得意としているようで、ジークが探している場所の特徴をすぐに覚えてジークと相談しながら群生地を探し始めた。それからは駆け出しの冒険者とは思えない速さでカゴがいっぱいになっていく光景は舌を巻くとしか形容しようがなかった。
「デューターさん。カゴいっぱいってこれくらいでいいんですか?」
「そうだな。基本的にカゴの縁にかからないくらいでいい。」
「じゃあこれで依頼達成だな!」
こういう無邪気なところはまだ年相応だが、俺には家族と故郷を失ったこの子どもたちがその寂しさを忙しさで必死に埋めようとしているのではないかと思った。その気持ちは俺にはわからない。俺にはまだ故郷も両親も残っているからだ。俺は独り立ちしようと焦るようなこの子供たちに対し、親代わりになれるのか心配だった。
「よし、じゃあ帰るか。」
そうやって森を出ようとしたとき、森の奥の方で茂みが動くのを確認した。俺は二人に姿勢を低くするよう手で示すと背負った槍を構え茂みを観察する。一瞬何かが光ったかと思えば飾り音とともに矢が飛んでくるのがわかった。俺はそれを余裕を持って弾くとそれは近くの地面に刺さった。
ジークは俺の後ろでその矢へと近づくとそれを引き抜いて何やら観察しているようだったが、俺は矢を警戒しつつ後退するので精一杯だ。
「これ、毒が塗ってある。」
後ろから聞こえたジークの声は少し震えているようだった。できるだけ魔術は温存しておきたいが、毒の矢を向けられているとなるとそんなみみっちいことも言ってられず、俺は一つ息を吐いて精神を集中させる。こういう
「風の精よ、この身に降り注ぐ苦難から我を守り給え。【
周囲の風が俺たちを囲むようにドーム状の渦を巻くのが感覚で理解できた。【
「走るぞ!」
そう言って振り返ると二人を連れて走り出す。ジークもレオンも森の中で走ることに慣れているのか木の根やツルに足を取られて転倒することもなく森の外へと抜け出た。
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「走るぞ!」
デューターの掛け声で俺は姿勢を低くして走り出した。レオンには背負いカゴを背負わせているので体を起こして走っても背負いかごが守ってくれるだろう。デューターの魔術で後ろから放たれる矢は逸れていくものの、彼は魔術師ではなく近接戦を得意とする槍術士だ。今でも無理をしているかもしれないので、できるだけ緑のドームの内側、デューターのすぐ近くを走るようにした。
森を出るとそれ以上矢は飛んでこなかった。街は目と鼻の先なのでこれ以上こちらを追っては来れないのかもしれない。俺たちは駆け足気味に城門へとたどり着いた。
「おいおいどうしたお前ら。」
息を切らせている俺たちの元へ歩いてきたのは昨日グスタフと話をしていた門番の衛兵だった。さすがにただ事ではないと思われているのだろう、その評定は真剣そのものだ。
「誰かに襲われた……とおもいます。これ……。」
俺はあのとき回収しておいた敵が放った矢を衛兵に渡す。粗末な矢だが、先端には毒草を刻んで煮詰めたようなドロリとした毒が塗られている。もし直撃していたら、肉ごと鏃をえぐり取らなければ半日も持たないだろうと思えた。衛兵はそれを受け取り、その鏃を見ると事を深刻に受け止めたようで俺たちに街へ入る事を促す。
「わかった、兵士長に相談してみよう、君たちは早く中へ入りなさい。」
「照会はいいのか?」
「あぁ、昨日の子供らだろ?お前らが面倒見てるんなら、まぁ大丈夫だ。」
「悪いな。」
予定よりは早いが、思わぬ襲撃により長い時間を使ったように思えた、あれだけ逃げ回るように走ったにも関わらず、レオンはしっかりと薬草の入った背負カゴを持ってきていたのでそのまま報告に向かうことにした。
薬草の採集はギルドからの依頼だ。なので集めた薬草はギルドが直接買い取るという形で報酬を受け取ることになる。窓口には薬草の質を見極めるためか、背の高く耳の尖った森人族の魔術師らしい男が偏屈そうな表情でこちらを見下ろしていた。
「まぁ、みせてくれ。」
明らかに期待していない様子だった。まぁ冒険者の初めての依頼で、右も左もわからないような子供が採集してきた薬草の精査など面倒な上に安い仕事なのだろう。男の気持ちもわからないわけではないが、それを顔に出すのは正直気に食わなかった。レオンも同じ考えのようでムスッとした顔をしている。
「ふむ、これはクラウン草か、それにシラクサ、アーリエ。余計なものも混じってないようだな、これならそのまますりつぶせば楽で良い。」
男はデューターを見るが、彼は何もしていないというふうに首を横に振る。すると先程よりは感心したというような表情になり、口調も柔らかくなった。
「いいだろう。こちらの手間も省ける。依頼は十二分に達成された。これが報酬金だ。この調子ならまた頼みたいところだな。
やはり高慢ちきで気に入らない男だが、こちらのことを正当に評価してくれた様子で硬貨の入った袋をカウンターに置き、俺はそれを受け取った。
銅貨十枚、一晩の宿と食事で消えてしまうような小さな報酬だが。それは小さな、俺達の初めての『冒険』で得たものだった。
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