すぐそこにある結婚問題

 西暦二千五十年、地球上に存在する全人類のライフログと遺伝情報が登録されるに至った。これを使って男女間の婚姻に関して、従来の自由恋愛とお見合いに加えて、新しい選択肢が追加された。


 全人類婚姻マッチングシステムの候補者ネットワークに登録するだけで、遺伝的にも性格的にもピッタリの結婚相手を瞬時に探し出してくれる。将来の性格や趣味の変化などにも対応し、幸せな家庭が約束されるシステムだ。


 当初は機械に運命を預けるなんて馬鹿げていると主張する知識人も多かったらしいが、十年もせずに影を潜めることになった。全人類婚姻マッチングシステムによって選ばれた男女の離婚率は零パーセント。幸せ指数は九十五パーセントを超えた。それから二十年、西暦二千七十年現在、自由恋愛やお見合いは過去のものになりつつある。


「ねえ、和弘さん。私たち全人類婚姻マッチングシステムがある時代に生まれて本当に良かったわね」


「そうだな。このシステムが無ければ北海道で生まれ育った僕と、沖縄で生まれ育った小夜子が出会う事なんてことは絶対に無かった」


「そうよね。最初は遠距離恋愛なんて続くと思わなかったけど、結局、和弘さんは私を求めた」


「小夜子だって僕を求めたじゃないか」


「ふふっ。そうだった。初めて羽田空港で顔合わせした時は、全然そんな気がしなかった。子供の時からずっと惹かれ合っている人に思えたわ」


「俺もだ。小夜子が天使に見えたよ。性格も趣味もぴったり。おまけに子供たちも病気とは無縁で健康そのもの。頭もいいし、スポーツ万能。兄はイケメン、妹は美少女。小夜子と僕の遺伝子をマッチングした最高の遺伝子だ」


「そうね。家族でケンカしたこともないものね。いつも楽しくて、笑顔の絶えない家庭って最高だわ。ふふ、やだ。甘えてこないでよ」


「そうか。嫌いじゃないくせして」


「バカ。もう、恥ずかしいじゃない」


「俺、母親みたいに心の広い小夜子に会えて本当に幸せだ」


「私だって和弘さんみたいな若い男の子と結ばれて嬉しかったわ」


「結婚した時、小夜子が六十二歳、俺が二十五歳。倍以上の歳の差だものな。でも、小夜子は若返り医療を受けていて同い年くらいにしか見えないけど。ほんとに小夜子は何時迄も可愛いな。ずっと俺の天使のままだ」


「もう。年齢のことは言わないでよ。私みたいな人は沢山いるのよ。男子と女子では生まれる比率が圧倒的に男子の方が多いんだから」


「だな。十パーセントも男が多く生まれるなんてどうかしているよ。神様は何を考えて人類を作ったのだろう。全人類婚姻マッチングシステムが無ければ、俺なんか一生結婚できないあぶれ者グループに入れられていたかもしれない。下手したらスマホアプリのAIを伴侶にしていたかもな」


「女だってそうよ。今や女性の平均寿命は百二十七歳、それに比べて男性は九十歳。同い年で結婚したら夫と死に別れて三十七年間も独り身で過ごすことになるんだから。私と和弘さんの歳の差は丁度三十七歳。二人で同時に旅立てるから寂しくないわね」


「ああ。小夜子と一緒に人生を全うできる俺は何て幸せなんだ」






おしまい。

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