すぐそこにある飲酒運転問題
私は製薬会社の若手女性研究員。研究テーマはアルコール分解剤。忘年会に新年会、送別会に歓迎会。ついつい、これくらい大丈夫ってお酒を飲んで運転する人っていますよね。
そんな時に、この薬を飲めばあら不思議。体内に巡るアルコールを瞬時に分解して酔いを醒(さ)ましてくれる夢のお薬なのです。
私は研究に研究を重ね、遂にそのお薬を開発しました。
一時は、タクシー業界や運転代行業界は仕事が減ると猛反発したけど、そこは製薬業界。圧倒的な資金力と政治家の力を使って抑え込んでしまいました。
お付き合いの多い政治家の皆さんは大喜び。これで心置きなく飲めると言うものです。お祝いイベントにお呼ばれの結婚式、会合に宴、散々飲んでマイカーでご帰宅。
ビールメーカーも日本酒メーカーも酒販店も居酒屋も大繁盛。だって、下戸もアルコール依存症患者もタップリ飲み明かしてくれるのですから。
旅客機のパイロットや電車の運転手だって、出発の直前まで飲みまくれます。出発前に一錠、ゴクン。はい、飲酒運転よ、さようならー。
今では客が減ると嫌がったタクシー運転手も、こっそりと車に常備。客待ちの時間にちゃっかりと酒盛りをしちゃってます。
警察のお偉方は、飲酒運転の罰金が減少したと嘆いています。でも、現場の警官はクリスマスや年末年始などの取り締まりの必要がなくなって家庭円満だって喜んでます。警察って意外にブラック企業なんですね。
自衛隊や発電所など、二十四時間体制の大口顧客もできて私の会社は大儲けです。今年のボーナスは期待できそうです。
「ねえねえ、沙希ちゃんってあのアルコール分解剤を開発した会社だよね。世の中便利になったよね。ほら、私なんてお酒全然だめだったじゃん。でも、これでお酒の楽しさを知っちゃった」
手に乗せたお薬はもちろん私の会社のものだ。会社の発明は極秘事項だから私が作ったと自慢できないのが悔しいけど、幸せな人が増えるって言うのは嬉しいものです。
「新郎新婦にカンパーイ!」
私は大学の同級生の結婚式で美味しいお酒に酔いしれた。二次会を終えた頃はかなり酔いが回っている。こんなに気分が良いのは久しぶりだ。
「じゃあ帰るね」
私は久しぶりに会った友達と別れて車を取りに駐車場へと向かった。
「私もそろそろ彼氏を作らなきゃ。ふふっ。去年入った後輩君。けっこう仕事もできるし、イケメンなのよね。今度、飲みにでも誘ってみようかしら。ふふ」
ルンルン気分でハンドルを握る。
ファ、ファーン!
けたたましく鳴り響くクラクションの音。
ガッシャーン!
救急車のサイレンが鳴り響く中で私は意識を取り戻した。
「大丈夫ですか」
救急隊員が心配そうに私の顔を覗き込む。
「私、事故を起こしたんですか?」
「ええ、ケガは大したことは無さそうですが車はもうダメですね」
「そうなんですか・・・」
「何でアルコール分解剤を飲まずに運転なんかしたんですか。これじゃあ自動車保険も効きませんよ」
「だって、酔いが醒めたら楽しい気分も消えちゃうじゃない」
おしまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます