すぐそこにある地球温暖化問題(よりも恋が優先です?)

 地球温暖化って言われてもピンとこない。この間、女子大からの親友が南の島、えっと、何だっけ?そうそう、モルディブ!思い出した。そこへ新婚旅行に行って、温暖化で思い出のモルディブが丸ごと海に沈むって嘆いてたっけ。


 地球温暖化で島が海に沈むの?じぁあ、日本も海に沈むわけ?そんな話、聞いたことないし。意味がわかんないわ。て、言うか羨ましい!私も二十六歳。そろそろ彼氏の一人くらい作らないと行き遅れになっちゃいそう。百貨店になんか入社するんじゃなかった。土日が仕事じゃ、休みが合わなくて友達と遊びにいけないじゃん。


「主任!何、ボケっとしているんですか」


 いけない、いけない。私らしくない。文系の考える事じゃない。あっ、主任って私の事ね。ふふっ。今年の春、主任になったの!婦人服売り場を任されたんだー。すごいでしょ。


「新人君!そろそろ、秋物を並べないとだね」


 秋から冬にかけてはコートやセーターなど高額商品が売れる時期。春夏は薄着になるから、どうしても値の張るものは売れなくなる。百貨店は秋冬が、かきいれどきなんですよ。


「主任、今年の夏は毎日、ゲリラ豪雨で客足は遠のくし、売り上げも散々でしたね」


「全くだわ。地球温暖化のせいよ。本当に困ったものよね。先進国が二酸化炭素を排出したせいで、温暖化ガスが溜まったのが原因らしいわ」


「主任、さすがですね。世の中のとらえ方がグローバルですね!」


「そりゃーまあ。こう見えても主任ですから」


 おっ。尊敬の眼差し。何気なく見てしまった朝のニュース特集が役に立った。大学出たてのボンボン。この子、可愛いのよねー。素直でイケメン。年下の彼氏かー。うん。ありかも知れない。


「主任ってフワフワしているお嬢様かと思いましたが、結構、頭いいんですね。尊敬します。色々と教えてください」


 うわっ。おだてちゃって。何、この子。私に気があるの!いいわよ。何なら一晩中教えちゃう。あんなことも、こんなこともね。


「私、厳しいわよ。でも、キミ、やる気あるし。今晩、飲みにでも行く?」


「えっと。ごめんなさい、主任!僕、彼女との約束があるんで」


 なっ、何よ!さっき迄の態度とまるで違うじゃない。私に向かって思わせぶりな素振りをするなんて十年早いわよ。ムカつくわ。


 ちっ。期待して損したなー。今晩もボッチ飯かー。どこかに良い男が落ちていないかしら。だいたい百貨店の婦人服売り場なんておばちゃんしか来ないし。接客商売なのに出会いが無いのよね。やんなっちゃう。


「主任!箱にしまった水着を出してどうするんですか。秋物に入れ替えるんじゃないんですか?」


 やばい。また、ボーっとしていた。でも、認めたくない。


「こっ、これは必要なの!キミ、知らないでしょ。近所にスポーツジムが出来るのよ。これだから、新人君は。もっと勉強しなさい」


 ふー。地下鉄の広告を端からはじまで見ていて助かった。まっ、彼氏無しは通勤時間も暇なのね。SNSとか相手がいないし。


「やっぱ、先輩ですね、主任。今朝の地下鉄の広告ですよね。あれを見て品ぞろえを変えるなんてさすがです」


「当然よ。常に何が売れそうかアンテナを張ること。分かったわね」


「大人の女性って素敵ですね。尊敬しちゃいます。彼女にも見習ってほしいくらいです」


 こ、この子。気持ち良いこと言ってくれるじゃない。男の子に尊敬されるなんて初めてかも!浮かれて良いよね。


「いい。これからは地球温暖化なのよ。冬でも暖かくなるの。もう、コートなんか全然売れなくなるし、セーターだって恥ずかしくて着れなくなるわ!」


「そっ、そうなんですか!百貨店の売り上げ激減ですね。どうしよう。あの噂は本当だったんだ。会社が潰れちゃうじゃん。転職サイトに電話しなきゃー」


「ちょっと!どこ行くのよー」


「あの噂って何?会社が潰れるって何?冗談でしょ!・・・」


「キミ、何を言っているのかな!」


「社長?」


 ちょっとー。何で社長が出てくるわけ。悪夢だわ。せっかく主任になれたと思ったのに。新人君のせいだ。呪ってやる!


「後ろで聞かせてもらった。キミ、なかなかやるじゃないか」


 へっ?何のことでしょう。


「我社は、創業以来経験したことのない窮地に立たされている。このままいけばリストラ。最悪、倒産もやむ無し。待った無し。ドル箱だった男性スーツはクールビズから派生したラフなスタイルで壊滅。シルクのネクタイも、革靴や革鞄、腕時計やベルトなどの小物の出番なし。この上、砦である高級婦人服を地球温暖化で失ったらもはや生きる道さえ閉ざされる」


 うっそ。噂ってこの百貨店が潰れちゃうってこと!まだ結婚もしていないのに・・・。


「キミ、ずいぶんと勉強しているようじゃないか。キミの様な若者に未来を切り開いて欲しいんだ。新しく作る我社再生プロジェクトのチーフをやってくれないか」


 こうして私は社長に抜擢されて、再生プロジェクトのチーフとなった。新人君を連れ戻しても仕事は尽きることがない。生活は一変し、休日返上。サービス残業のてんこ盛り。はあぁー。彼氏欲しい!出会いがさらになくなった。


「チーフのせいですよ。毎晩、チーフと残業で全然彼女に会えないから、フラれたじゃないですか!責任を取ってください」


 イケメン新人君!キラキラのダイヤモンド指輪を差し出しながら言うことか。もう、胸がキュンとしたじゃない。






おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る