すぐそこにある美容整形問題

 西暦2050年。再生医療が発達で培養した皮膚細胞と顔筋細胞を3Dプリンターで造形して、自分の顔に移植する手段が確立した。これによってシミ、シワ、タルミと言った年齢によるお悩みが一挙に解決し、美容整形の分野は一気に花形ビジネスに躍り出た。


 六十代、七十代の高齢者でも、生まれたての赤ちゃんの様なフワフワでプニュプニュのお肌を手に入れられるのだから人生百歳時代の現在に相応しい技術となった。この技術は『マスク』と呼ばれ、西暦2090年現在、社会に広く浸透して四十年がたっていた。


 オシャレなカフェに親子の様な女性二人組が座って談話している。娘と思われる女の子が言った。


「ねえ、私、彼と離婚して新しい顔にしようと思っているの」


「えー。またー。あんたこれで何回目よ!もう七十歳なんだからいい加減に、恋に恋するのはやめたら」


「だってーさー。彼の顔を見るのに飽きたんだもの。もう、毎朝あの顔を見ていると吐き気がしてくる」


「それが良いって結婚したのは何処のどなたかしら」


「あの時は良いと真剣に思ったんだけどさ」


「彼を紹介した私の身にもなってよ。本当に。麻尋(まひろ)の飽き性は死んでも治らないわね」


「えへへへ。仕方ないでしょ。性格なんだから」


「で、次はどんな顔にするの」


「こんな感じかな」


 麻尋はスマートフォンの『マスク』の整形シミュレーションアプリで作った顔を私に見せてくれた。


「ねっ!かわいいでしょ。私の新しい顔!今風だし、絶対に新しい彼ができるわ」


「・・・。ちょっと。前回、六十歳の時に変えた顔が二十代で、その時ですら相当な若作りだったのに。これ、どう見ても十代だよ。あなんた七十歳で十代の顔ってやり過ぎなんじゃない」


「だってー。若い男の子と付き合いたいんだものー」


「まあ良いけどさー。で、相手の希望はどんな顔」


「へっへっへ。最近流行のアイドル、一条君かなー」


「まあ、かっこいいけど、孫にしか見えないなー」


「まっ、孫とか言わないでよ。年寄り臭いじゃん」


「・・・。あっ、私、ちょっとトイレに行ってくるね。年を取るとトイレが近くって」


 そう言い残して私は席を立った。トイレの前でスマートフォンを取り出して電話をかける。


「麻尋さー。やっぱり顔を変えて、あんたと離婚するってさー。今度は十代だって。若いイケメンの彼氏が良いらしいよ。ターゲットはアイドルの一条君だって」


「うん、うん、まじで。十年おきに顔を変えて、これで四回目だよ。幼なじみなんだから、あんたも、もう七十歳過ぎているじゃん。それでも一条君の顔に整形するわけ。十代だよ、十代。呆れたちゃうけど、そうまでして麻尋を愛し続けるあんたを尊敬するわ」


「はい、はい。新しい顔になった麻尋に、名前と顔を変えたあんたを紹介するのね。懲りないお二人さんだこと」


 私はスマートフォンのスイッチを切ってトイレに入った。






おしまい。

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