第14話 伝説の奥義
「んぐー」
さすが埼玉の通勤電車。込み方が半端ない。って感心している場合か!姫を悪のサラリーマンどもから守らねば。俺は姫を入り口のところに立たせて、電車のドアに両手をついてサラリーマンたちを押し返すのに必死だった。
姫の顔が目の前に!んぐっ。近い。ちょーどアップ。吹き出物一つない真っ白なつや肌。まつ毛なっげー。ノーメイクのほっぺ、かわいい。全パーツが神がかっている。
んっ、んんーん?この態勢!これはまさか!で、で、で、
伝説の壁ドン!!!!
ではないか。
俺、今、イケメンだけが許されると言う奥義『壁ドン』しているよね?ねえ、山下陽(やました よう)。これって『壁ドン』だよな。あれ、山下達はどこ?って押されおされてあんなところに。ってことは二人っきりじゃん。やばい。やばいぜ。頼む、俺の理性!耐えてくれー。
ギギー。ガッタン。
うわっ。ブレーキ踏むなよ、運転手。
『この先、急カーブがあります。電車がゆれますのでご注意ください』
感情のない、車内アナウンスが響きわたる。
てめえら、絶対、押すんじゃないぞ。渾身の力を込めて、俺は姫のための空間を守っていた。
ギギギギギギーン。
べチャ。
これは夢か?あごの横にふっくらしたものが。ぽよんとした感じ。ひっ、姫のほっぺが俺のあごに触れている。艶やかな栗色の髪が鼻先に。心地よいシャンプーの香りが鼻を抜けていく。
宇宙人もシャンプーするんだ。ふわふわしたいい香り。意識がお花畑に飛んで行く。って感心している場合か。
「姫、大丈夫?」
「うん。健太こそ」
「俺はへっちゃらだ。慣れてるし」
何がへっちゃらだ。ほぼ、ぼっちだった俺には強すぎる刺激。慣れている?人生初の女の子、
大!
密!
着!
その上、相手は超絶美少女!
「んぐ、んぐ、んぐー」
歯を食いしばれ。山田健太!お前ならできる。にっくき、悪のサラリーマンどもめ。押し返せー。伝説の壁ドンへと立て直すのじゃー。
「おりゃー!」
やった。やったぞ。俺は悪を押し返した。
「健太!ありがとう」
プシュー。
電車の扉が開く。駅のホームに到着したのだ。
って、早くね。ねっ、ねっ、早すぎだよね。今、いいところだったのに!神様、お恨み申します。
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