第12話 黒歴史
三人の後ろをとぼとぼ歩く俺。俺の脳裏を思い出したくない黒歴史が駆け巡った。
<黒歴史保育園編>
「鬼ごっこやろうよ」
山下陽(やました よう)が彼女に言った。んぐ?既に彼女がいるではないか。こやつ、こんな時から彼女づれかよ!マセガキじゃんかよ。
「陽ちゃんと一緒!」
誰だおまえ!覚えてねーなー。ベッドタウンのマンモス保育園だから仕方ないけど。くぅー。手ーつないでんじゃね。恋人つなぎじゃんかよ。てか、既にイケメンオーラ、バリバリ。
「私もやるよ!」
くっ。石田三美(いしだ みつみ)!この頃からメガネザルか。まあ、保育園児だから多少かわいげはあるが。おまえ、このまんま背が伸びないんだぞ。ざまあみろ。
「俺も入れてよ」
「なんだ、3階かよ!鬼なら入れてやる」
くっそー。三美のやろう、チビのくせして生意気だ。前言撤回、かわいげなし。
その頃、俺のあだ名は「3階」だった。マンションの最下層に住んでいるからだ。ちなみに三人とも同じマンションに住んでいて、山下陽は30階、石田三美は21階なのだ。
高層マンションにはマンションカーストと言うものがある。親の所得が階数であからさまにわかるからだ。下層に住むものはそれだけで差別された。
「鬼でいいから入れてください」
俺は三人にこびへつらった。
<黒歴史小学校編>
「あれ、健太だ!このプールは会員制だけど」
てめー。悪いか。山下陽!ってか、おまえやっぱり彼女連れなのね。二人でプールデートなんて小学生が普通やるか。ハレンチな!
「キャンペーン中だから一日会員券が買えました」
「そうなんだ。良かったな」
なっ、なんだ、その上から目線。潜って足を引っ張ってやる。
「あっ。3階がきた!」
うるさい。石田三美!その名で呼ぶな。俺だって今日だけ会員なんだぜ。ざまあみろ。俺は一日会員券を見せつけた。
「お子様プール限定ね。あちらへどうぞ」
「くっ。それではみなさんさようなら」
<黒歴史中学編>
「あのー。これ」
「はぁ?」
おおー!この白い封筒はもしやラブレターと言うものでは。ついに、ついに俺にも春がやってきた。
「山田君。これ、山下君に渡してほしいの!同じマンションなんでしょ」
「そう言うのは自分で渡せよ」
「だって。恥ずかしいから。ぐすん」
ちょっと。なに泣いてんだよ。わかった、わかった。
「みんなー。健太が女の子を泣かしている!三美が届けてあげるから泣かないでね」
<そして現在の俺>
・・・・・。ふざけんなよ。俺だってな、やるときゃやるんだ。いつまでも、ほぼ、ぼっちじゃねーんだよ。俺は覚悟を決めた。一気に歩みを速める。
月野姫(つきの ひめ)の左横を歩く山下陽の間に割って入り、彼女の手を握って走り出した。
「わりいな。お二人さん。先に行っているぜ」
「健太だ!うれしい」
俺は、手を握り替えて、恋人つなぎで彼女を連れて走った。桜の木々の間を、春のあたたかい風が走り抜けていく。
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