第11話 満開の桜道

 自衛隊もマスコミもギャラリーも全員帰ってもらった。もちろん、タダでは帰らないことは承知していたので、地球消滅と言う名の荒っぽいことを多少はにおわせた。俺には俺なりに必死になる理由があったから許してくれ。プライバシーは大切だろ!ねぇみんな。


 と言うことで俺と月野姫(つきの ひめ)は私立松原高校の校門の前に立っている。目の前に桜並木が続いている。校長先生には特別許可をもらってある。これから二人は、桜舞い散るこの道を歩いて帰るのだ。


 どうだ、山下陽(やました よう)!この道はお前だけのものじゃない。まいったか。俺だってやるときゃやるのだ。まあ、ほとんど彼女の力によるものだが。が、しかーし。発案したのは俺だ。


 俺は月野姫と二人、舞い散る桜の風景を眺めた。美しい眺めだ。そして、それより更に美しい超絶美少女が俺の横に立っている。これを奇跡と言わずして、なんと表現しようか。気持ちとは裏腹に緊張して最初の一歩が踏み出せない。


「健太、帰ろうか」


「うん」


 彼女に誘われる形で二人は歩き始めた。桜の花びらが風に運ばれてくる。彼女の周りをクルクルと回って通り過ぎていく。正に絶景。夕方の優しい日差しに照らし出される風景。その中で神々しい光を放つ彼女の横顔に、俺の目は釘付けだ。


 あっ。花びらが彼女の髪に。どうする俺。そうだ。今だ。神の与えたもうたチャンスを逃す気か。ほら、手を伸ばせ。花びらを取ってあげるのだ。勇気だ、勇気を出すんだ。山田健太(やまだ けんた)。


 っとその時、長い腕が彼女の髪へと伸びだ。その指で桜の花びらをつまんで払いのけた。


「ん」


「髪に花びらがついてますよ」


 で、出たな山下陽!な、なぜにお前がここにいる。どうして、そうやすやすと、自然な動作で彼女の髪に触れるのだー!くっそー。


「あのう、陽君。何でここにいるのですか?」


「そりゃあ。健太に地球の運命を託すのは自衛隊としても不安だろ。と言うことで、幼なじみで大の親友である、僕がお目付け役をおおせつかった。もちろん、校長先生にも許可はとってある」


「健太の親友ですか!初めまして。月野姫です。よろしくお願いします」


彼女は満面の笑みを浮かべた。


「・・・」


 な、何がおおせつかっただ。俺の大の親友?俺をぼっちに追い込んだ黒歴史の元凶が!が、姫に友達がいない寂しい男と思われるのもなんだ。ここは彼を受け入れるしかない。


 なんてことだ。二人で手つなぎ帰宅する俺のラブラブ大作戦は、わずか数分でついえた。んぐぐぐぐー。耐えろ俺。


「私もいるよ!」


 背後から黒い影が駆け寄ってくる。赤いメガネがきらりと光る。その影は姫の前で止まると、俺が握るはずの彼女の手を取った。


「はじめまして。石田三美(いしだ みつみ)と申します!同じく山田健太の幼なじみでーす」


 またしてもきさまか!今度はどんな悪だくみだ。


「初めまして。月野姫です。健太に楽しそうなお友達がいっぱい。ふふっ。うれしいな。こちらこそ、よろしくお願いします」


違う、違うぞ。姫。騙されるな!俺の心の叫びは、彼女の満面の笑みにかき消された。


かわいい、何度見てもかわいい。ビューティフル、姫。その笑顔のためなら、俺はどんないばらの道でも歩いて見せる。ってここは桜の道だけど。こうして、前を行く三人プラス後ろに従う俺。


ほぼ、ぼっちじゃん、俺。

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