第36話 距離

「夕くん本当に大丈夫?」

「俺は問題ないよ。それより緋奈は今日も来たのか。」


緋奈はストーキング事件からこの喫茶店に通っている。本人は学校では話しかけられないということで通ってるらしいがお金は大丈夫なのだろうか。


「学校じゃ話しかけられないし家は分からないからね。それに伽奈ちゃんもまだ私のことは嫌っているでしょ?」

「そうだな...」


伽奈だって頭では緋奈が悪いとは思ってないのだろうが感情はそうもいかない。あの時に緋奈が庇ってれば、緋奈が伽奈や他の人に伝えてれば、そんなふうに思うのだろう。


「伽奈ちゃんはどうなの?夕くんが休んでるのって伽奈ちゃんの為でしょ?」

「まぁな、とりあえずは転校することにしたよ。噂ってやつはどうやっても消せないしな。」


俺の時もだったが噂というのは否定しても大多数が疑念に思ったり、中心的な人物が言った場合はそれが本当のように思われる。

そして噂に踊らされた者は噂の当事者を排除しようと動き、当事者は最悪自殺する。

しかも本人達は自分達のせいじゃないと自覚しないから質が悪い。


「なら、はいこれ。」

「なんだこれ?」


そう言って渡されたのは白い箱だった。中から甘い匂いと冷気が漏れている。


「これ今話題のケーキ。伽奈ちゃんに渡してあげて?」

「いいのか?」

「うん。ほら、なんだかんだ昔は遊んだし私にとっても妹みたいな子だからさ元気になったら嬉しいなって。」

「そっか、助かるよ...」


嫌われていると分かってても励ましたいと思う緋奈はやっぱり昔から変わってないのだろう。


「それじゃ、そろそろ上がるからもう少し待っていてくれ。」


そうして後片付けをして着替えて緋奈と合流する。

緋奈と俺との距離は1m。昔はもっと離れていたが今はここまで縮まった。


『これからもずっと一緒にいようね、ユウくん!』


ふとした時に蘇るこの記憶。顔も髪も太陽の光で見えないでいた。

この時俺は誰と遊んでいたんだろうか...

ずっと緋奈だと思っていたが違うのだろうか。


それは誰でもいいのかもしれない。家族として、幼馴染として俺は緋奈を守っていくと誓った。

俺は会わない方が緋奈の為になると思っていた。それを緋奈は望まなかった。いや、俺自身も本当は望んでいなかったのだろう。だから緋奈の言葉を受け入れることが、緋奈のことを許すことができたのだろう。


(そろそろ前を向くべきか。)


まずは伽奈の問題を解決しよう。そして俺は向き合うんだ。学校でも話せるように。

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