第18話 幼馴染みとして

「夕くんが引越してお母さんが千代女さんに連絡して知ってね。それからすぐに離婚したよ。」


笑う緋奈を見ると吹っ切れているのだろう。


「けどまさか高校で夕くんに会えるとは思わなかったかな。」

「俺もだよ、まさか紗倉が大湊に来るとは思わなかった。」

「引越した家から近くてね、それに離婚したから学費免除がある大湊を受けたの。」


そう言ってまた静かになる。小学校まではあんなに仲良く話せたのに2年間離れるだけでここまで話しづらくなるとは思わなかった。

向こうもこちらをチラチラ見てるが何を話せばいいのか出ないようだ。

なら俺の方から用件を切り出すべきだろう。


「そういえば最近変わったことは無かったか?」

「変わったこと?」

「あぁ、誰かに付きまとわれたりとか。」


そう言った時、緋奈の肩が上がった。やはり緋奈はストーキングされているようだ。


「そ、そんなことないよ。」

「そんなことないって紗倉...」


お前、手を握りしめてるじゃないか...

子供の時の癖で我慢している時いつもそうしていただろうに。


「本当になんにもないのか?」

「うん...」


そうして俯く緋奈は震えていた。

その姿は過去にも俺がイジメられている時にも見た姿だった。


だから俺はそんな緋奈の事が嫌いになれなかったのだ。


「なぁ。」

「えっ?名前で...」


困惑した顔でこっちを見る緋奈。名前で呼ぶのも2年振りだ。


「もし本当に辛いなら言ってくれ、俺はそんな緋奈を見たくないんだ。」


家族みたいな時間が長かったから緋奈が辛い思いをしているならそれをなんとかしてやりたいと思う。

そうして返事を待っていると緋奈が泣き出した。


「私は夕くんが苦しい時に傍にいなかったんだよ?なのになんで助けようとするの!」


涙を流しながら叫ぶ緋奈の気持ちは痛いほど伝わってきた。

確かに俺が苦しい時に緋奈はいなかった。それどころか止めようとしなかった。

ただそれでも俺は緋奈を憎むことはできない。


「そんなの決まっているだろ、幼馴染みだからだ。」


泣く彼女の頭を撫でる。昔も緋奈が泣いていた時にはよく撫でたものだ。

緋奈は俺の服を掴みながら泣いていた。その姿を懐かしいと思いながら彼女が泣き止むまで俺は頭を撫でるのだった。

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