第46話思いを秘めて
スタートは、両チームともきれいに決めた。前二列の8台のマシンは、スタートグリッドほぼそのままで1コーナーに吸い込まれていく。
立ち上がりで、ラニーニがアウトからやや前に出るが、ストロベリーナイツの4台は、イン側にシャルロッタ愛華が並び、ぴったり後ろにエレーナとスターシアがスクエアの形で密着している。バレンティーナはまだラニーニの後ろでチャンスを窺っている様子だ。
2つ目のターンでラニーニは、前に出ようとするが、密集した4台がインを占め、大回りになってしまう。その上、立ち上がりでアウト側ゼブラまで圧しやられ、スロットルを弛めざる得ない。バレンティーナ共々、一旦4人の後ろに下がり、同じチームのマリアローザも加わり、何度もアタックするが、トップはおろか4台の中に割り込む事すら叶わない。横に並ぶ事はできても、前に出ない限り締め出されてしまう。
そのような展開がレース開始早々から繰り返されたが、やがてシャルロッタと愛華が交代でエレーナを引っ張り、スターシアが後ろからのアタックをブロックする態勢へとなっていく。少しばかりマシンの性能や数で上回っていても、簡単に崩す事の出来ないスピードと守りを兼ね備えた陣形だ。
シャルロッタと愛華は、並のライダーではついて行くのも儘ならないペースで飛ばした。エレーナとスターシアも二人に引っ張られペースをあげる。いきなりのストロベリーナイツペースに、このまま最後まで行きそうな勢いだ。
しかし、バレンティーナは様子見を決め込んだようだ。ラニーニとマリアローザがストロベリーナイツを突き崩そうとアタックするが、序盤からのハイペースはマリアローザにとってややオーバーペースである。それでもベテランらしく、ラニーニのように積極的なアタックには出れないものの、連係して守る側の嫌なポジションにマシンを寄せてくる。長いストレートに差し掛かると立ち上がりを抑えられていても、パワーにものを言わせてストレートエンドではスターシアを追い越し、エレーナにまで並び掛ける。しかしストロベリーナイツは割り込む隙を与えず、コーナー進入で再びアウトへと弾かれる。
シャルロッタと愛華は競いあうようにファーステストを刻み、スターシアが背後を守る。その間、エレーナはマシンと体力を温存していた。エレーナのチャンピオン奪取に向けて、唯一にして最強の布陣でレースを進めた。
ストロベリーナイツの一矢乱れぬフォーメンションに、さすがのバレンティーナも手が出せない。それでもまだバレンティーナは落ちついていた。
(焦ることないさ。スターシアがいつまでもブロックし続けられないのはわかっている。パス出来なくてもじわじわとプレッシャーを与え続ければ、必ず力尽きるはず)
バレンティーナはほぼ正確に状況を把握していた。ストロベリーナイツは、バレンティーナたちのジュリエッタのパワーに対抗するために、スミホーイのチューニングマージンを限界まで削っている。おかげでスピードで致命的な遅れはないものの、燃費を犠牲にしているのはバレンティーナの予想通りだった。小柄なシャルロッタと愛華はまだしも、エレーナとスターシアにとってはゴールまでギリギリの燃費計算だろう。エレーナがひたすら負荷を避けた走りに徹しているのが、それを裏づけている。
事実、スターシアがレース途中で燃料が尽きる可能性はかなり高くなっていた。トップで風よけになっているシャルロッタと愛華の方が負担が大きいように思われるが、彼女たちは理想のラインを走れる。最速の走りとは、つまり最も効率的な走りとも言える。対して後続のアタックをブロックするには、ベストとは違うラインで、無理なブレーキングと加速を強いられる。それは最速タイムを刻むより、マシンにもライダーにも大きなストレスとなっていた。
ラニーニは、愛華と並ぶ若手成長株だ。マリアローザにしても長年トップクラスのチームでアシストとして地味ながら確実な仕事をこなしてきたベテランライダーである。スターシアの鉄壁のブロックを崩せなくとも、確実に消耗させている。ディフェンダーとして一番厄介なスターシアをガス欠リタイヤさせられれば、表彰台は大きく近づく。
バレンティーナは、表彰台に上がりさえすればチャンピオンを得る事が出来る。ただこの余裕に、何度も足を掬われてきただけに、全力で優勝を狙っていた。
さすがのバレンティーナも、シャルロッタがエレーナより先にチェッカーを受けようとしてるとは思ってもいなかった。
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