第13話 アクス・バーズの覚悟
「(私が...負けている)」
信じたくない現実が突きつけられる。アクス・バーズさえいなければこのような状況に陥ってない。悔しい、悔しい、このままでは死んでも死に気切れない。
だから
私は
お・前・ら・を
道連れにする
「『門よ開け、光よ去れ、門は■■■、■■■■■う、闇■呼■■■、門■■め■■、■■■■■■■』」
その瞬間にゼアド・ドダンを中心に魔法陣が展開される。
「なんだ?」
アクスは困惑した。ゼアドが何かしらの詠唱を行った瞬間。魔法陣が発生し、その中央部から名称し難き何かが現れようとしていた。
「何をした!」
アクスは焦る、これは決して放置していいものではないことだけわかったからだ。
「私は今さら魔界に戻ったって合わせる顔がない、だったら君たちを道連れにするのさ、さぁ滅びを受け入れろ」
中央部の何かはゼアドの体にまとわりつき魔法陣の中へ連れて行く。
「さようなら忌々しき『光の騎士アクス・バーズ』」
その言葉を最後に完全に魔法陣の中に連れていかれた。
魔法陣は徐々にだが大きくなっていく、どこまで大きくなるかはわからないがこのまま放置すれば多くの人が取り込まれる。可能性があるとすれば『光の魔術』中心に近ければ効果はでかいだろうし、内部から放てばより効果はあるはずだ。
「アクス君、君の考えは予想がつく、それは僕が許さないよ?」
クロウがアクスを止めた。クロウとアクスは友達でもあったし、クロウ自身アクスの父に助けられた恩義もあった、それは普段は気にしないで過ごしていても、目の前で自らの身を投じようしているアクスを見れば恩義を思い出す。それだけさせてはいけないと。
「アクス...なんでそこまでやる。俺たちは頑張っただろ。」
ダンガズがアクスを止めた。ダンガズにとってアクスとは生意気な弟分という印象だった。アクスの魔術は全ての魔術を無効化できる『光の魔術』自分は『力の魔術』という魔術での絶対的な力。どちれが優れているのかではなく魔術を使わないで戦えるアクスをすごいやつだと思っていた。そして今度は己を捨てる気でいる。それは止めなければいけない。
「アクスさん、約束を覚えていますよね...」
アクスと出遭ったのは偶然だった。偶然出会い、ほぼ何も知らない自分の話を信じてくれた。自分はかつてアクスに言った「自分のために死なないで」とそしてアクスはかつて言った「自分が死なないと約束してくれるならアクスは自分のために死なない」今でも覚えている。強敵だったアルトフ・ヴァンター、そしてゼアド・ドダン、みんな誰も死なないように今まで頑張ってきたのに功労者のアクスが死んでしまうなんて絶対だめ。何としてでもやめさせなければ。
「みんな...」
クロウ・ハルハート、ダンガズ・ヌブそしてサリア・アルエーズ。みんな止めようとしてくれる。
「クロウ、お前との無駄話まぁまぁ好きだったよ」
だがもう決心した。
「ダンガズ頼りにしてた、『力の魔術』実は少し羨ましかった」
だけど心残りもある。
「サリア...ごめん約束破ることになる」
この言葉を言うべきだろうか。
「サリアの事一目見たときからその...」
余計な重荷を背負わせることになるのでないか。
「サリアのことが...」
「ちゃんと!」
「ッ!」
サリアが言う、涙を浮かべながら笑顔で
「ちゃんと言ってください」
「一目見たときからサリアの事が好きだった。そしてそれは今もこれからも変わらないッ!」
人生で初めての事だった、恥ずかしさから逃げるように魔法陣へ向かう。返事を聞いておくべきだったろうか?だが、死への恐怖より返事の結果の方が怖く感じてしまったのだから不思議だ。
中心部に立つと何か張り付いてくる、気持ち悪いが今ならなぜか誰にも負けない気がした。
魔法陣に体が沈んでいく、恐ろしいという感情ここまでくると芽生えてくる。だが必ず成功しなければならない、そうしないとみんなが死んでしまう。ある程度体が沈んでくると魔法陣の本体という呼称が正しいのかわからないが、何かが虎視眈々と狙っていることだけはわかった。
クロウ・ハルハート、ダンガズ・ヌブすまねぇなあんだけ長く一緒にいたのに最後に思い浮かんだのは、サリア・アルエーズの笑顔だった。
「来やがったな...」
何かが襲いかかってきている、一番近づいてきたところに放つ、最大の『光の魔術』を
「今だッ!」
「『光の魔術<抱光>』」
自身全てと引き換えに発動させた魔術は生命の輝きともいえる光で魔法陣を照らし、光によって魔法陣の中は何も無くなっていた。
スイン王国 大広間
魔法陣が光輝く、そしていままで広がるばかりであった魔法陣は急速にしぼんでいく。
そして最後にはゼアド・ドダンがいた場所そしてアクス・バーズが最後に立った場所まで収束し、最後に大きな輝きを放ち、何も残すことはなかった。
「アクス君」
「......」
「アクスさんッ」
ただむなしく泣き声が響くだけであった。
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