第4話 栄光の先に潜んでいた暗がり

 年が明けて3歳となったロゴタイプが初戦として選んだのは、皐月賞トライアルのG2スプリングステークスだった。距離こそ本番より短い距離であるものの、過去には何頭もの皐月賞馬を輩出してきた長い伝統を誇るトライアルである。

 2歳チャンピオンとして他馬の挑戦を受ける立場であったロゴタイプは新馬戦以来となる1番人気に推され、レースでも好位を確保しての先行押し切りという堂々たる競馬で完勝した。2歳チャンピオンの堂々たる競馬にファンの期待も高まるばかりだった。



 そして迎えた本番の皐月賞。ロゴタイプは朝日杯で破ったコディーノや稀代の名牝シーザリオを母に持つ世代屈指の良血馬エピファネイアらを抑えて1番人気に推されていた。

 レースは後に高松宮記念を勝利することになる快速スプリンター・コパノリチャードが先導する緩みのない流れとなり、そんな中でロゴタイプは無理に先行せず中団に控える形で末脚を温存。最終コーナー手前くらいから仕掛けて外から先に先頭に立つと、内側で食い下がるエピファネイアを力でねじ伏せ1/2馬身差をつけゴール。しかも勝ちタイムは中山競馬場の芝2000mのコースレコードである。ロゴタイプはクラシック3冠の最初の関門をを力強いレースで突破したのだった。


 普通ならばこのまま2冠目の日本ダービーでも大本命となってもおかしくはなかったのだが、ロゴタイプのあまりの快足ぶりに今度は「芝の2400mで行われる日本ダービーでは、距離が長すぎて脚が保たないのではないか」という不安がにわかに湧き出て来たのだ。

 実際、父親のローエングリンも長い距離での実績はないに等しく、また2000mでレコードを出せるような馬が2400mても同じように力が出せるのかと言われたら、中々そうはいかないのが実情であった。

 更に、皐月賞へ出走出来るだけの賞金を持ちながら過密日程を嫌って出走を回避、狙いをダービー一本に絞っていたディープインパクト産駒の大器キズナがG2京都新聞杯を快勝し、盤石の体制でダービーに向かっていたことも、ロゴタイプの立場を微妙なものにしていた。


 そして、ダービー本番を迎えたその日、1番人気に推されていたのはキズナであり、ロゴタイプは2番人気に甘んじる事となった。肝心のレースの方も好位を取って先行したまでは良かったものの、やはり距離が影響したのか最後の伸びを欠いてしまい、キズナの剛脚の前に5着に屈する結果となってしまった。


 もっともこの時点では敗因は明確に距離の問題であって、距離を短縮して再び2000m以下のレースに出走したならばすぐに立ち直るであろう、というのが大方の見方であった。

 ところが2ヶ月後、再起を期して出走したG2札幌記念では、今度は重い馬場に脚を取られて再び5着に敗れるという屈辱を味わった上、蓄積され続けた疲労がピークに達しつつあったロゴタイプは中々復帰することができず3歳秋シーズンを丸々棒に振る羽目に陥ってしまった。


 これがその後永きに渡りロゴタイプを苦しめ続けるトンネルの入り口であったことに、その時気づいたものは居なかった。

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