第29話 対ゾス帝国同盟の成立へ向けて

 反撃を開始した当方は、その後数度の交戦状態に入った模様。


 ……正直、途中から記憶が曖昧な所があるのだが……如何やらやってしまったらしい。


「ベルちゃんのエッチ!」

「はい……」

「スケベ!」

「はい……」

「ベルちゃんの変態!」

「返す言葉もございません……」


 久々だったもので、その、大分やらかしてしまった。


 まあ、乱れたベッドとかコーデリア……殿の様子とか見るに、我ながら、ちょっと……。


 ストレス溜まっていたのかなぁ……。


「最初の方は優しかったのに!」

「その辺は覚えているんだけど、そのですね、コーちゃんがあまりに可愛かったので……」

「……っ」


 コーデリア殿はそっぽを向いてしまった。


 しまったなぁ……年上なんだからもっと雰囲気とかリードとかを考え無くてはいけなかったのに。


「責任、取ってよね」

「それは勿論。――私と家族になって欲しい」

「こうなる前に行ってくれたら、感動的だったけど……良いよ」

「うん、ありがとう」


 おかげで、虚飾も何もない素の言葉が出たのは良かったのか?


 いや、でも、暫くはご機嫌取りかなぁ……。



 その後は互いに体を拭いて、一応ベッドの乱れを直して、互いに寄り添って眠る事になった。


 相当暴れたらしいのに、私の下半身はまだ落ち着かない様子で、我ながらどうなっているんだと呆れる。


 それに、いきなり結婚しますとか言ったら、リチャードはともかく他の連中がなんていうかなぁ。


 王になれと言う魔王の忠言と共に戻れば、専横の先触れと思われないだろうか?


 もっと、慎重に行くべきなんだろうが……。


 個人的には凄く幸せな事なんだけど、私の今の立場は個人の幸せを追求している場合じゃないと言うか……。


「眠れない?」


 コーデリアが囁く。


「色々と思う所があってね」

「後悔しているの?」

 

 少しだけ囁きが揺らいでいるのを感じた。


「まさか! 凄く幸せな気分だよ。……ただ、これが皆に受け入れられるかなとか、考えてた」

「受け入れられなかったら?」

「手に手を取って駆け落ちは無責任だからね、皆に頭を下げて回るよ」

「それじゃ、アタシも一緒に頭下げて回るね」


 いじらしい事を言ってくれると、コーデリアの頭を軽く撫でた。


 くすぐったそうに僅かに身を震わせた彼女へと改めて視線を向けて。


「前に、コーちゃんをコーちゃんって呼んでた人は、どんな人?」


 そう呼ぶ人は今は居ないと言う発言を思い出して問いかける。


 気にはなっていたが、問題が山積みであり、村が燃えたと言う言葉からも聞く事が憚られた。


「気になる? 残念だなぁ、ベルちゃんを紹介できなくて」


 コーデリア殿は懐かしそうに視線を宙に彷徨わせ。


「アタシのお姉ちゃん。野盗の群れが村を襲った時から行方が分からない」

「……それは……」

「アタシね、その時はもう神殿に出入りしてたんだけど、その話を聞いて飛び出して、村に走ったの。辿り着いた時には火も消えていて、何人かの村の生き残りに出会えたけど、誰もお姉ちゃんを見た人は居なかった」


 語られる言葉は、いつもと変わらない軽い口調だったけれど、その内容は重い。


 言葉に詰まった私を見てコーデリアは変な話をしてごめんねと笑ったが、不意に涙をこぼした。


 悲しくない訳はないのだ。


 苦しくない訳はないのだ。


「あれ? なんか、涙止まらないや」


 そう告げて、無理に笑おうとするコーデリアを抱きしめた。


「今は笑わなくて良い、今は泣いて良いんだ」


 そう、ゆっくりと語れば、コーデリアは戸惑ったように身を震わせて、暫くしてから私の腕の中で泣き始めた。


 勇者と言う称号に人々が込めた思いは、コーデリアに負の感情を発露させる事を拒ませた。

 

 人々の思い、或いはその願いが、一人の姉を失った少女を追い詰める事になったのかも知れないと思えば、私は一層強く彼女を抱きしめていた。



 次の日、身支度を整えて部屋を出る。


 あれから暫くコーデリアと他愛もない話をして過ごしたから、少し寝不足だ。


 その前には、大分、アレだったし……。


 そんな事を思っていると、フィスル殿が普段通りの少女の姿で私の前に現れた。


「昨夜はお楽しみでしたね?」


 ……。


 …………。


「お、遂にヤったんだ」


 私が思わず固まると、フィスル殿はそれで何かを察してうんうんと頷いていた。


 遅れて部屋から出てきたコーデリアは、私とフィスル殿を交互に見やって首を傾ぎ。


「どうしたの?」


 と問うた。


 

 魔王と再度謁見すれば、実務的な話となったが、最後にいかほど援軍を引き連れて戻るかと問われる。


「私自身が陛下の軍を引き連れて戻れ、と?」

「会談の成功を内外に示すには軍を連れて戻るのは大きな成果ではないかね」

「しかし、私の方で数を示すのはかえって無礼では?」

「欲が無いな。だが、それでは数百と言われればどうするのだ?」


 そりゃ少ないな。


「しかしながら、この場合は数百でも大きな成果を喧伝できます。ゼロでなければ、いかようにも」

「この程度の揺さぶりでは慌てもしないか。……良かろう、我の沽券にも関わる事ゆえ、第一陣一万を連れて領地に戻るが良い。糧食の関係もある故、帝都に戦いを挑む段にならねば大軍を動かせん」

「温情に深く感謝いたします、陛下」


 少ないが、実は数百でも十分なのだ。


 戦力としては期待できなくとも、宣伝効果は十分にあるからだ。


 だと言うのに、戦力としても期待できる万の軍勢を示すとは、魔王の度量は大きい。


 これは私の今後に期待もあっての事だと思うが、何とか応えねばならないな。


「さて、この後はどうする? ロガの地に戻り、未だたむろしている帝国軍相手に決戦か?」

「三将軍相手には決戦も必要でしょうが、その前に幾つかやる事がありますので、そちらを行いながら戻ります」

「種は巻いてあると言う訳か。ではいくが良い、ロガの王ベルシス」

「戦勝の報告が出来る様に努力してまいります、魔王陛下」


 私が首を垂れて踵を返すと、謁見の間に居た高位の魔族数人が意外そうな顔をしたのが見えた。


「受け入れたか、良き覚悟だ」


 魔王は私が王との呼び名に否定を返さなかった事に満足したような声を発して、私の背を見送った。


 後はレジシィの軍勢を武装解除し、カナトスの安全を確保しつつ、カナトス隣国のクジャタにも呼びかけねばならないな。


 対ゾス帝国同盟の結成を。


 あ、……金の問題、解決しているかなぁ……。

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