第6話 メロウ
ガンコナー君のマッサージが終わった後、ふと、気が付いたことがある。
そういえば僕、昨日お風呂に入ってないじゃん。
昨日は学校から帰ってきた後、我が儘なネコの王様と戯れて、昼寝して…夜は皆でワインを開けてそのまま寝てしまった。
布団で寝なかったせいで寝ぐせもボサボサだ。
レッドキャップ君は笑って「寝ぐせがボサボサでもいいじゃない」って言ってくれたけど現役大学生としてはお洒落には気をつかってしまう。
ちょっと息もお酒臭くなってるしね。
洗面台に向かった僕。
さて、歯を磨いて服を脱いで…と。
ガラガラ
「いやん!ユータさんのえっちぃ!」
「あ、失礼。邪魔したね」
…男の人魚のメロウ君が先に入っていたみたいだ。
メロウ。別名セイレーンやマーメイドとも言われる。
上半身は人間で下半身が魚という、わりと日本人でもなじみの深い姿をしている。
女性の姿が一般的なのだが、ちゃんと男性の人魚もいるのだ。
ただ、一般には男性の人魚は醜い姿とされている。
なんでも女性の人魚がよく人間と恋に落ちるのは、男性の人魚が醜い姿をしているからだとかなんとか。
ただ、このメロウ君はというと…
「ユータさん、一緒にお風呂に入りたいのなら言ってくれたらいいのに」
かなりの美青年だ。何か全身緑色だけど。
緑色の長いストレートの髪、緑色の肌に緑色の鱗。
その色を肌色にして顔だけ見ると一見女性にも見えなくはない。
「あぁ、ゴメンね。入ってのに気が付かなかったよ」
「いや、こちらこそ家主よりも先にお風呂を頂いていた。すまないね」
メロウ君は非常に紳士的だ。人魚界でもモテモテらしい。
なぜそんな彼が僕にくっついて来たかというと…。
「あら、メロウちゃんじゃないの。よかったら昨日のご飯の残りが少しあるけど食べる?」
「あぁ、レッドキャップさんのご飯だけが私の楽しみなのさ」
メロウ君は非常にグルメなのだ。
しかも…
「おや、嬉しいな。ローストビーフじゃないか!やっぱ魚よりもお肉さ、お肉」
なんと珍しい魚嫌いの人魚。人魚は普通、生の魚を食すのだが、その生臭さが嫌いらしい。
それだけではなく、焼いたり煮たりしたのもダメという。
なので水中では、自分の嫌いな食べ物に囲まれて随分と苦労したと、涙を流しながら語っていた。
「たまには魚も食べないと、栄養バランスが崩れちゃうわよ?」
「魚なら、もう一生分食べたさ。これからは陸の食べ物を制覇していく予定なのさ」
ペタペタとその尻尾を器用に動かして風呂場からリビングに進んでいく。
「あ~もう、メロウ君。ちゃんとタオルで水分を拭き取ってからリビングにあがってくださいよ」
「あぁすまない。私としたことが忘れていた。どうも人魚というのは水分に鈍感になってしまうようだ」
普段から水に濡れているのが自然なので、逆にタオルで水分を吹きるとことに違和感を感じるらしい。
でも、ここは僕のアパートだからね。
家主のいう事は聞いてもらわないと。
「あぁ、勿論さ。こんな素敵な暮らしができるのなら水分の一つや二つ、拭き取ってくれても構わないさ」
拭き取ってくれて構わないって…ちゃんと自分で拭いてくださいね。
そんなジト目で見てもダメです。
こら、甘えるような仕草をしないでください。
ケットシー君をけしかけますよ?
「あわわ、それだけは勘弁してほしいのさ!すぐに拭くから、アイツだけは!」
さすが魚。ネコには弱いらしい。
メロウ君は慌ててタオルを手に取り体をペタペタしている。
「ん、ちゃんと拭けていますね。ではリビングでレッドキャップ君からご馳走になってください」
「ああ、ユータさんはこれからお風呂かい?」
「ええ、先程はメロウ君が入っていましたからね」
「すまなかったね、ゆっくり湯船につかるといいさ」
ふぅ、やっと落ち着いてお風呂に入ることが出来る。
さ~て今日は…と湯船につかりながら物思いにふけていたら、リビングから声が聞こえてきた。
「ニャー!旨そうな魚だニャー!酔い覚ましに生魚だニャー!いただきますニャー!」
「ひぃい!私は魚じゃないぞ…た、助けてぇーー!」
「ちょっと、ケットシーちゃん!ダメよ!」
「なんでワシはグラスの中で寝とったんかいのう…う、吐きそうじゃ…」
やれやれ、今日も退屈しないですみそうだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます