第7話 マンドレイク
お風呂から上がるとリビングは惨劇だった。
二日酔いでグデっとしている、ネコの王様と小さいおじさん。
メロウ君は尻尾を齧られたのか部屋の隅で尻尾を抱えて丸まっている。
レッドキャップ君はというと「やれやれ」という表情をしながら、レプラコーン君の吐いたあとを掃除していた。
「手伝おうか?」
「いや、大丈夫よ。おバカな居候どもが暴れたんですもの、居候同士でちゃんとお片付けするわよ」
「僕が昨日、新しいワインを開けなかったらもうちょっとマシになったでしょ?だから僕も手伝うよ」
「ボクも手伝うー!」
窓際においてある植木鉢から元気な声が聞こえた。
植木鉢には10センチほどの植物が植えられており、太い茎からは大きな二枚の葉が生えている。
太い茎からは小さい茎が枝分かれしており、その茎には小さく細かい葉が生えている。
声はその植物の下から聞こえてきた。
「ん~じゃあ、マンドレイク君も一緒にお手伝いをしようか」
「わ~い!」
植木鉢からピョコっと葉っぱが浮き上がった。かと思うとその下にある根っこの部分が顔を覗かせる。
更に手のような根っこと足のような根っこが生えてきて、完全に土から出てきた。
彼はマンドレイク君。全長30センチほどの意思を持った植物だ。
伝承では錬金術にも用いられる植物で、引っこ抜く時には金切り声を上げるという。
その声を聞いたものは呪われて死んでしまう、非常に恐ろしい植物だ。
が、このマンドレイク君は金切り声を上げるどころか、積極的に自分の意思で僕らを助ける為に土から出てこようとする。
マンドレイク君は頭の葉っぱをユサユサと揺らしながら机の上を懸命に拭いてくれている。
「ん~しょ、ん~しょ」
「あ”~頭がいたいニャー。飲みすぎだニャー」
「あ、ケットシーのおじちゃん!」
ケットシーがフラフラしながら寄ってきた。
かと思ったら僕の肩に飛び乗ってきた。
「ちょっとケットシー君?掃除の邪魔するならどいておいてくれるかい?」
「ニャ~吾輩は自由だニャ。誰の指図も受けないのニャー」
やれやれ、こういう所は本物のネコと一緒だね。
僕の肩の上で大きな欠伸をしている。
「ケットシーのおじちゃん!よかったらこれ食べる?」
マンドレイク君が自分の小っちゃい葉っぱをプチッっと引きちぎって持ってきた。
その根っこ部分は不老不死の材料になると言われているんだけど、葉っぱはどうなのかな?
「あ!ユートみたいな普通の人間には刺激が強いから、食べちゃダメだよ!」
うん、大丈夫だよ。流石の僕でも友達の体の一部を食べるような事はしないよ。
どこかのネコの王様は友達の人魚を食べようとしたみたいだけど。
「あれはメロウが美味しそうだから仕方ないニャー。ニャー、マンドレイクの葉っぱは酔い覚ましに丁度いいニャー」
僕の肩に乗っかったまま、葉っぱを咀嚼しだすケットシー君。
なんでも妖精にとってマンドレイクの葉は酔い覚ましや睡眠剤、滋養強壮、肩こりに効く万能薬なんだとか。
僕の家にマンドレイク君が住みついた時は、妖精の皆は大喜びしてたっけ。
「ちょっと、人の耳元でモチャモチャしないでくれるかい?あぁ、ほら、涎が肩についた」
「ニャーごめんニャー。あとで嘗めとっておくニャー」
どちらにしろ涎がつくじゃないか。
「ユート、ごめんね!ボクの葉っぱでも服に付いた涎を綺麗にする効果はないんだよ!」
「大丈夫だよ、マンドレイク君。洗濯すればすぐに綺麗になるから」
「じゃーもっと汚しても問題ニャいニャ?モッチャモッチャ」
ケットシー君はそういうとまた僕の肩の上で咀嚼を始めた。
やれやれ、だからといって「汚してもいい」なんて一言も言っていないのだけどね。
「ケットーシー君は罰として、今日の晩御飯は以前これはあんまり美味しくないって言ってたやつね」
「そ、そんニャー!」
「アハハハ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます