第5話 ガンコナー
どこからだろうか、鳥の鳴く声が聞こえてくる。
ン…あれ?
僕はボーっとしながら身を起こす。
窓の外からは朝日が部屋に差し込んでいる。
あぁ、そうか。思い出した。昨日、デュラハン君を励ます会を開いて皆でワインを飲んでいたんだ。
レプラコーン君が途中で参加してきて、新しいワインを開けた所までは覚えているんだが、そこからの記憶がない。
少し飲みすぎてしまったかな。
まぁいいか、今日は幸いにも予定が何もない。
丸一日オフの日だ。今日は何をして過ごそうか。我が儘なネコの王様の遊び相手にでもなろうかな。
部屋の中を見回すと、机の上でワインボトルを抱えて寝ているネコの王様。
ふふ
思わずクスリときてしまった。
あんなに可愛い顔をしたネコがどこかの酔っ払いのオジサンみたいにボトルを抱えて寝転がっている様が妙に可笑しかった。
たまに足がピクピクッっと動くのが更に笑いを誘う。
空のワイングラスの中にはレプラコーン君が寝ている。
なんでそこで寝ようと思ったのだろうか。
レッドキャップ君とデュラハン君はもう先に起きていたのだろう、どこにも見当たらなかった。
デュラハン君は仕事にでも行ったのだろうか。
彼は飲んだら泣き上戸、絡み上戸になるけど、普段は真面目な良い奴なんだ。
仕事にも一生懸命、責任感を持って取り組んでいる。
「あら~ユート君。おはよう」
キッチンからレッドキャップ君がやってきた。
その手にはお盆を持っており、お盆の上からいい匂いが漂ってきた。
「お味噌汁…」
「ええ、酔い覚ましにいいかと思って。好きでしょ?蜆のお味噌汁」
この妖精さん、女子力高いなぁ。
残虐で恐れられている妖精とは思えないな。
こういう奥さんがいたら、幸せだろうな。
「あらあら、うふふ。それってプロポーズ?」
ん?違うよ?まだ結婚する相手もいないし、予定も無いよ。
「なら、どうだい?ミーと結婚するのは」
「うわ!」
いつの間にか、僕のすぐ真横にイケメンの妖精が座っていた。
「もう、ガンコナーちゃん。今はアタシがユート君とお喋りしてるのよ?」
「ハハハ、すまないね。お邪魔するよ」
突然現れた彼の名前はガンコナー君。彼も妖精の一種でとても軟派な妖精さんなんだ。
色んな女性に言い寄ってはその気にさせて、忽然と姿を消してしまうプレイボーイだったのだが…。
「ガンコナーちゃんはユートじゃなくて、女性に言い寄ってなさい」
「おいおい、レッドキャップ君。勘弁しておくれ。ミーはもう女性はコリゴリなんだよ」
聞いたところ、過去にその気にさせた女性たちに捕まってしまい、修羅場を体験したそうだ。
もう少しで殺されてしまうところを命からがら逃げだして以来、女性恐怖症になってしまったそうだ。
これからどこに逃げようかと悩んでいる時に僕を見かけて、これ幸いと付いてきたそうだ。
まぁ完全に自業自得だとはいえ、少し可哀想かもしれない。
「とりあえず、ガンコナー君も蜆のお味噌汁を一緒にどうだい?レッドキャップ君のお味噌汁は最高なんだから」
「あらあら、ユート君。嬉しい事言ってくれるじゃないの」
「では、お言葉に甘えようかな」
「じゃ~もう一人分、用意するわね~。二人とも、座って待っててね~」
レッドキャップ君が鼻歌交じりにキッチンに引っ込んでいく。
ところで…
「ガンコナー君はいつまでその姿でいるの?」
「ん?そうだね。じゃあ…どっこいしょっと…」
ボワンと煙が出たと思うと、目の前のガンコナー君は老人の姿になっていた。
これが彼の本来の姿だ。
イケメンの姿は女の子の心を掴むために魔法で若く見せているだけだ。
「はぁ~やれやれ、腰に来るわい…」
「ははは、よければ腰のマッサージでもしようか?」
「おぉ、最近の若者は親切じゃのう~、ほんじゃぁ、まぁ頼むわい」
「ハァハァ、男同士のくんずほぐれつ…ハァハァ」
さっきから大人しいと思ったら、レッドキャップ君。何やってんのさ。
そんな所にいないで、君もこっちにおいで。
肩のマッサージをしてあげよう。
「あら、悪いわねぇ」
机の上にガンコナー君の分のお味噌汁を置いた後、僕の目の前で背を向けてチョコンと座るレッドキャップ君。
では、真心を込めてマッサージをさせてもらいますね。
「あらやだ、凄い気持ちいいわ~。こういう日常に幸せを感じちゃうのって、贅沢よねぇ~」
レッドキャップ君、いつも美味しいご飯をありがとうね。
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