第4話 デュラハン
「だからねぇ!ボクァねぇ!言ってやったんですよぉ!」
僕の目の前の机の向かい側には首のないでっかい鎧が座っている。
その鎧の首から上はテーブルの上で晩御飯のローストビーフとワインを口に運んでもらいながら喚いている。
あ~だいぶ酔っぱらっているなぁ、これは。
お酒に弱いのに、そんなハイペースで飲んじゃうから…。
「ちょっと~ユート!聞いてるんれひゅか!?」
「うん、聞いているよ、デュラハン君。それから何て言ってやったんだい?」
彼はアイルランド出身の妖精、デュラハン。
首のない騎士の姿をしており、首のない馬にまたがって死が間近にせまった人の元に現れるそうだ。
ちなみに彼が乗ってきた首のない馬は今は駐輪所で大人しくしている。
いい子だな、あとでニンジンでも差し入れしてあげよう。
「バンシーのババアはねぇ?それがボクらの仕事だって言うんだけどねぇ!ボクァね!こんな皆に嫌われる仕事ぉ!本当はやりたくないんれしゅよぉ!グスッ!」
そう、彼の仕事は死を告げる事なんだ。
だからなんだろう、よく彼は勘違いされるんだ。
彼は死期が近い人の元に現れるだけで、別に危害を加えるわけではない。
もうすぐ寿命が尽きてしまうから、その前に心残りの無いように準備をしておきなさいという、優しい仕事なんだ。
だけど…
「だいたい、首がとれてるからって…差別だ!ボクだって妖精だぞぉ!!ケットシーくらい可愛ければ!!」
「吾輩が可愛いのは仕方のない事だニャー。もっと可愛いと言ってもいいニャよ?」
いつの間にか帰ってきていたケットシーがローストビーフをモチャモチャ噛んでいる。
確かに、見た目のせいもあるんだろう。
夜中に首のない鎧が訪ねてきたら、それはビックリしちゃうかもしれないね。
「ボクァ…やっぱり向いてないんだ…この仕事…うぅ、グスッ」
ついに本格的に泣き出してしまったぞ。これは良くない。
「う~ん、デュラハンちゃんの気持ちも分かるわぁ~。向こうだと未だに偏見が強いものねぇ」
「おお、レッドキャップゥ~わかってくれるかぁ~」
「ええ、アタシもこの帽子を見るや否や、みんな逃げてっちゃって…悲しかったわぁ」
「そうなんだ!そうなんだよ!!」
変な一体感が生まれているぞ。
でも、みんなそれぞれ苦労しているんだなぁ、ここ日本で少しでも癒されてくれたらいいんだけど。
とりあえず、僕に出来ることは…。
「ほら、今日はワインでも飲んでスッキリ泣いて。仕事の愚痴ならいくらでも聞くから、全部はき出しちゃお?」
デュラハン君の開いたグラスにワインを注いであげる。
明るい赤い色をしたワインからは、ほのかにベリー系の香りが漂ってくる。
口当たりもフルーティで繊細で柔らかい味わい。
「うぉーーん!ユートォ!お前は本当にいい奴だなぁ!よし、今度ボクの馬に乗せてあげよう」
首のない馬か。普通の馬とは乗り心地は違うのだろうか。少し気になっちゃうね。
「あら、乗馬デート?いいわねぇ。アタシもご一緒していいかしら?」
「レッドキャップゥ~勿論だよ!ボクたちぁ~同士だぁ~!」
「あらあら、うふふ~嬉しいワ」
レッドキャップ君とデュラハン君は再びワインを乾杯し、一気に飲み干す。
彼らにとってワインは水みたいなものだろうから大丈夫なんだろうが、アルコール中毒にならないのだろうか。
少し心配だ。
「なんじゃ~ワシ抜きで宴会かぁ?」
あ、レプラコーン君、おはよう。ローストビーフ食べるかい?ワインもあるよ。
「おぉ~いいのう、ご馳走になるわい」
「レプラコーン!ボクァねぇ!悲しい!悲しいんだよぉ!!」
「うお!どうしたんじゃデュラハンの坊主は!」
「ボクァ…ボクァねぇ!!」
あぁ、話が長くなりそうだなぁ。
まあいいか、夜はまだまだ長いんだ。
さて、もう一本新しいワインを開けましょうか。
「おい、ユート!この酔っ払いデュラハンの坊主をなんとかしてくれぇ!」
「ボクァねぇ…!ボクァねぇ…!!!!」
今日も楽しい一日が過ぎていく。
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