第35話「邂逅」

「うーん……」


 肌寒さに目を覚ますと、冷たい石造りの天井が俺を出迎えた。

 毛布をどかし、目をゴシゴシ擦ってから周りを見回す。

 そうしてはて? と首を傾げそうになったところで、俺はようやく自分の居場所を認識した。


「そうだった。俺投獄されたんだっけ」


 と、呑気に頭を掻きつつも、周囲を確認する。

 特段昨日と変わったところはない。窓がないので時間がわからないが、腹具合から見るに……。


(うん? これは……)


 やたら腹が減っている気がする。もしかして昼くらいまで寝ちゃった?

 いやまさかそんな、昨日の今日だぞと思いつつ牢の外を見やろうとして、俺は戦慄した。


 鉄格子の前に食事が置いてある。それだけならまだよかったが、置いてある数が問題だった。

 二つだ。盆に載った食事が、二つ置いてある。


 昨日投獄された後、気疲れにやられて寝てしまう前にネイトさんに一度夕食を持って来てもらったので、おそらくこれは彼女の配慮だろう。

 食事を持って来たはいいが、俺が寝ていたのでそのまま起こさずにおいてくれたのだ。さらに時間がわからないだろうと、次に来た時もそのまま一度目の食事を持ち帰らず、あえてそのまま置いておいてくれたのだと思う。


 つまり俺は、おそらく朝、昼の食事二回分を寝過ごしているということにある。こちらの世界でも三食食べるのが常であることは確認しているし、間違いない。

 となると、まずい。脅迫状が指定して来た時刻は夕刻だ。せめて自分の失態は自分で何とかしたいと、ネイトさんに頼んで連れて行ってもらおうと思っていたのに、もうその機会がないということになる。


「だあああああ! 俺はどんだけミスすりゃ気が済むんだちくしょうめ!」


 どうも、向こうで散々怠惰な生活を送っていた癖がまだ抜けていないらしい。

 思わず走り寄って鉄格子を乱暴に掴んでしまうが、当然しっかりと作られたそれが開くはずもなく、ただ底冷えするような冷たさが手に伝わってくるだけだった。


「おーい! 誰かー! ネイトさーん!!」


 動物園のゴリラよろしくがしがしと体を打ちつけながら大声で叫ぶが、そんなもの届くはずもなかった。

 ここに来るまでに、俺はおそらく3階分くらいは階段を下らされた。この牢はかなりの地下に作られているのだ。


「まあ、無理だわな……」


 腹が減っているせいか膝から力が抜け、俺はその場にへたり込んでしまった。

 音魔法のボムを使えば届くかもしれないが、この牢の床には魔法の発動を抑える紋様のようなものが描かれており、それも無理だ。魔法による脱獄対策だと、連行の際にネイトさんに教えてもらった。


 さらにこの牢とマグナース家を繋ぐ扉は、あのティアの部屋にあった扉と同じような封印が施されているようで、レオナルドさんしか開けることができないようになっているらしい。つまりレオナルドさんの許可を取らず、誰かにこっそり出してもらうということも不可能という訳だ。


 しかもこの点については、また少しややこしいことが起こってしまった。

 脱獄対策としては最高のセキュリティなはずのそのシステムなのだが、なんと俺は、その扉もなぜか開けられてしまったのである。


 もうめっちゃ怪しまれたよね。だってネイトさんとバーンズさんが確認してみても、ちゃんと開かなかったからね。

 これにより、俺は無事圧倒的嫌疑をかけられてしまい、レオナルドさんへの心証がさらに悪くなってしまった。

 まあ、そりゃそうだ。仮に日本であっても、厳重なはずの施錠を無効化するやつがいたら、その辺に野放しには出来ないからな。


「まいった……」


 こんなことになるなら、何とかして逃げておくべきだっただろうか。しかし俺の手札で一番使えるはずだった彼女がアレじゃあ、結局どうにもならんかったよなあ……。 

 先日のやり取りを思い出し、俺は思わずため息をこぼしてしまった。


「あんだよお前、また何かやったのか? ……まあ派手に動かれて死なれるよりはマシか。ちっと大人しくしてろ」


 一応解雇された身であることを考えてか、エントランスの扉のところに背を預け、話には入ってこなかったエレナ。しかし俺の投獄が決まったのを知って、最初に述べた言葉がこちらになります……。


 つまるところ、俺は彼女にとって撒き餌みたいなものなんだろう。俺の周りで起こるトラブルを“食う”ために俺の周りにいるに過ぎないのだ。たぶん俺が死ぬことは防いでくれるが、それ以上のことはしてくれない。もしあの場で助けを求めても、彼女は動いてくれなかっただろう。今の彼女の標的は黒竜、もしくはあの“風使い”なのだ。


「まあでも、そんなもんだよな……」


 彼女にとってはそうやって俺を使うことがメリットなのだから、結果的に助かっている俺がそれを非難することなどできない。

 普通、そんなもんだ。ただで人を助ける人間なんていない。何かしらの対価、理由があって初めて人間は動く。俺だってもちろんそうだ。


「で、どうするか……。俺だけじゃ何ともならんのは昨日確認済みだけども……」

 

 改めて牢を見回したが、使えそうなものはやはり何もない。あるのはベッドの毛布と、たぶんトイレだろうと思われる謎の穴くらいだ。確認したが、その穴も人が入れるような大きさではない。逃走経路に使うには無理がある。

 

 いよいよもって終わったか。と、そう思った時。


「ん?」


 階段のほうから、誰かの足音が響いて来た。

 窓もなく、閉め切られた地下では音がよく反響する。段々とクレッシェンドするその足音に、階段の方へと目を向ける。一体誰が来たのかと固唾を呑みながらそこを見つめていると、


「…………えっ」


 階段の暗がりから姿を見せたその人を見て、俺は数瞬絶句してしまった。

 なぜ。どうして。どうやって。

 いろいろな疑問が頭をぐるぐるし、ただ呆然とするしかない。彼女は俺の姿を見ると、ほっとしたような顔を向けてからこちらに駆け寄って来た。


「タツキ!」

 

「エ、エクレア??」


「助けに来たよ! ……ってうわぁ!? ちょっと見ない間にすごいやつれてる! 間に合ってよかったあ」


 いつもの格好と違い、体全体をすっぽりと覆うローブを身に纏った出で立ちではあるが、この青髪涼やかベビーフェイスは間違いない。エクレアだ。


「な、何で……?」


 と、驚愕の表情で見つめる俺を横目に、彼女はどこから手に入れたのか、持っていた鍵で牢の錠をさっさと開けてしまった。


「聞きたいことはたくさんあるだろうけど、今はとにかく逃げよう! さ、早く!」


「ちょ、ちょっと待って! 何で? 何でこんなところにいるの? ていうか生きてたの??」


「もちろん! あたしはあれくらいじゃ死なないよ!」


「ええ? いやでも、何か服だけ残して消えちゃってたみたいだし……」


「まあいいからいいから! 何をやっちゃったのかは知らないけど、今はバレる前にここを出よう!」


 と、腕を掴まれ引っ張られるが、何が何やらわからない俺はすぐに走り出す気にはなれなかった。何となく、少しエクレアの様子がおかしいような気がする。

 腕を掴むエクレアにじっと訝しげな視線を送ると、しかし彼女はそれを真っ直ぐに受け止め、ただにこりと笑った。


「さ、行こ!」


 やはり何かがおかしい。少なくとも、ここで俺の態度に対する疑問が返って来ないのは、何かをごまかそうとしているような気がしてならない。


 彼女は俺を奮い立たせてくれた恩人であることは間違いないし、今でもその気持ちは変わらない。感謝している。それが彼女に対する俺の素直な気持ちだ。

 だが、腑に落ちない点もかなり多い。彼女は一体何者なのか。それは俺のこの異世界生活の中で、大きな疑問の一つだったことは確かだ。


 一応彼女の正体に関しては、俺なりの仮説は立てていた。ただそれは俺の感覚だけをよりどころとした荒唐無稽なものに過ぎず、様々な疑問を無理やり飲み下すために、本当に仮で立てたものでしかなかったはずなのだが……。

 ここに来て、しかしその説の信憑性が高まって来たような気がしてならない。と言うより、俺の中ではもう確信めいたものにまで変わってしまっている。


「エクレア」


 なぜ彼女がそれを隠すのかわからない。

 きっと理由はあるのだろう。が、ここまで来たらちゃんと彼女と腹を割って話をしておきたい。泣いても笑っても、俺の命はあと数日しかないのだから。


 そうして俺が今一度しっかりと名前を呼び、真っ直ぐに彼女の蒼い瞳を見つめると。

 俺のその気持ちが通じたのか、彼女は少し困ったように眉をハの字にしながらも、俺の腕を掴むその手の力を緩めてくれた。


「ん……何かな? 何だかすごい神妙な顔してるけど」


 もしかしたら、彼女は俺の言いたいことをすでにわかっているのかもしれない。それでもこうしてはぐらかそうとしているということは、やはり彼女なりのそうしなければならない理由があるのだろう。


 でも、ごめん。俺は推しには真っ直ぐに向き合いたいドルオタなんだ。一回推した子には、絶対背を向けたくない。まして君は、俺がこの世界に来て初めてできた“最推し”の女の子だから、なおさら。


 そうしたありったけの純粋な気持ちを瞳に載せると、彼女ももう俺を無理に急かすことはせず、黙って俺を見つめ返してくれた。


「ちょっと、話をしておきたくて」


 俺のそれに、彼女はその大きな瞳をぱちくりさせる。


「話? どうしたの、急に改まって」


「うん……いやちょっと、ね。今俺結構大変な案件を抱えてるから、ここを逃すと君とゆっくり話す機会がなさそうだから。ちゃんと話をしておきたくて、さ」


「そう、なんだ」


 彼女はそう言うと、また一度、少し困惑気味に息を吐く。が、その後俺から距離を取るようにぱっと後ろに一歩飛び退くと、


「では、聞きましょう。なんだろう。こんなふうに男の人に改まられると、何だかドキドキするなあ。どんな話かわからないけど、お手柔らかに頼むよ。タツキ君」


 そうして後ろに手を組みつつ、彼女は少しだけ楽しそうにふふ、と笑う。

 

(ああ、やっぱりいいなあ……)


 、間違いなく彼女は俺の中で最推しの女の子。改めて強くそう思った。

 だからこそ、俺達の関係をこんな曲がった状態にしておきたくはない。俺は推したいのだ。ただ真っ直ぐに。彼女という逸材を。

 そのためにはやはり、はっきりとさせておかなければならない。彼女が何者なのかを。


「エクレアはさ、何でこんなに俺のことを助けてくれるの?」


 この質問だけはどうしてもしなければならない。彼女に関する疑問は、まずここが起点となるからだ。

 そして、やはりこの質問が最も嫌だったのか、彼女の顔がそこで明らかに曇る。

  

「何でって、最初に会った時言ったじゃない。すごい外法魔術を操る君に興味があって、そんな君に恩を売れればいいなって思った。ただそれだけだよ」


「確かにそう言ってたね。でもやっぱり、それにしては君は俺に肩入れし過ぎだよ」


 そう。彼女は明らかに損得計算を間違っている。俺を助けたところで、俺から彼女に提供できるようなことは何もないのだ。それは少し一緒に居ればわかるはずなのに、彼女は俺を要所で助けてくれた。本来なら今回のエレナのように、自分が得るもの以上に相手を助けたりはしないはずなのに。


「もしかしたら度を越すお人好しなのかもなあ、って考えたこともあったんだけどね。でもやっぱり不自然だよね。仕事がなくて余裕がないって人が多いこの土地でさ」


 そこまで言うと、彼女が少し悲しそうに眉をひそめた。

 少し曲がって伝わってしまったかもしれないと、俺は慌てて手を振って軌道修正を掛けた。


「あ、いや、君が本当は優しい人間じゃないなんて言うつもりは全然ないんだ。そうじゃなくて、単純に度を越してるって話。君が優しい人間なのはちゃんと知ってる。短い付き合いだけど、それだけはわかるんだ。ホントに」


 と、しっかりとフォローしたつもりだったが、とうの彼女は不満そうに頬をぷくっと膨らませて俺を見る。


「むう。何だか釈然としないなあ。けど君の中であたしの評価は低くないって言うか、割といい感じな訳だね」


「うん。それは間違いなく」


「ふうん……。で、結局君は何を言いたいのかな? 仮に君が言うように、あたしが君に肩入れし過ぎてたとしても、君に損はない訳じゃない? 何かまずいの?」


「まずくはないよ。ただ俺は、君とだけはこれ以上疑念のある状態で付き合っていたくないんだよ。君が何者なのか、ここではっきりさせておきたいんだ。まあアタリはついてるって言うか、もう大体わかっちゃったんだけどさ」


 俺のその台詞に、彼女は眉をひそめ、訝しげに目を細める。

 普通に聞いても、きっと彼女は答えてくれない。だからまずは、外堀を埋めていくしかないだろう。


「まず最初に変だなとはっきり思ったのは、これだね」


 俺は胸の鎖を引っ張り、それを彼女に見せた。


「あたしがあげた首飾り?」


「そう」


 あの黒竜の一件の時に彼女からもらった、翡翠の石があしらわれたちょっと無骨な

デザインのネックレスだ。


「これはね、俺が一番欲しいものだったんだよ。自分があとどれぐらい生きられるのか知りたかった俺にとっては、人の天命がどれぐらいあるのかわかるこの首飾りは、マジで本当に有り難かった」


 よく研磨されたその石の上を撫でつつ、俺は続けた。


「でもさすがにでき過ぎだよなあ、って思ったんだ。こんなちょうどよく、俺の欲しい物が偶然手に入る訳なくないか? って」


「そんなのたまたまだよ。君の運がよかっただけじゃない?」


「まあ、そうだね。そういう可能性ももちろんある。けど同時に、もっと単純な可能性もゼロじゃない」


「何?」


 やや前のめりになってそう聞く彼女に、俺は答えた。


「──俺がこういうものを欲しがっていることを、君は元々知っていた」


 さすがにここまで言えば、俺の意図するところは伝わるだろう。

 するとやはり、そこではっきりと彼女の瞳が揺れた。ほんの一瞬、少しだけ目を見開く。そこにはかすかにだが、確かに動揺の色が垣間見えた。


「元々知ってたって……何それ。意味わかんない。そんな訳ないでしょ」


「うん、そうだね。だって、俺、ここに来てから誰にもこれが欲しいなんて言ったことないし。俺が置かれている状況を知ってる人じゃないと、確実に知り得ない情報だね」


 どんなに優れた情報屋がいようが関係ないだろう。俺はそれを口に出したことは一度もないのだから。


「でも俺は、そんな人物に心当たりがある。一人だけ」


 そう言って一歩彼女に近づくと、彼女は少し警戒したかのように、ぴくりと一度肩を震わせた。


「たぶん正体を隠さないとならない理由があったんだと思う。でも、もうわかってるんだ。だから隠さなくていいよ」


 真っ直ぐに、彼女を見つめる。

 そうして改めて見てみれば、何のことはない。その顔は、あの時俺が最初に見た彼女と、完全に瓜二つだった。

 

「身を挺して俺を黒竜から守ってくれたり、こうやって何かの罪人になってしまったっぽい俺を、貴族の家に不法侵入してまでわざわざ助けに来たり……割に合わないよね。でも、自分が莫大な投資をしてしまっている人物なら、たぶん助けざるを得ない」


「────」


「そうだよね、エクレア」


 伺うように、俺は彼女を見つめた。しかし彼女の表情からは、何も読み取れなかった。

 その思わず触れてみたくなるような、柔らかい曲線を描く頬に、ただゆらゆらと牢屋の中を照らす鈍い光が揺れる。

 どうやら、どうあっても自分から正体を明かすつもりはないらしい。

 ならば、仕方ない。ダメ押しだ。 


「……俺はしょうもない人間だけど、一つだけ得意なことがある。“自分が可愛いと思った女の子”の顔は、俺は絶対に忘れないんだ」


 例え一瞬でも見ることができれば、俺はその顔を心のアルバムにインプットすることができる。

 街中でたまたま推しの子を見かけた時なんかは、よくそうして覚えて帰り、事あるごとに思い出して「俺だけの〇〇ちゃん、ぐふふ」などと一人悦に入っていたものだ。

 世を渡っていく上では何の意味もない能力。だけど今回は、それが功を奏した。


「だから、俺の目はごまかせない。エクレア、俺は……」


 と、俺がそうまさに核心を突こうとした、その時。

 彼女が、ふいに俺にぴたりとくっつくように、その身を寄せた。


「……ふぅん」


 突然のそれに、俺は鋭く息を吸い込んでしまった。

 体を覆い隠すような外套を羽織ってはいるものの、こうして完全にパーソナルスペースの内側に入られると、一気に彼女の情報が五感を突いて来る。その情報量の多さに軽い目眩のようなものを覚え、俺は思わず一歩後ずさってしまった。


 ちょうど俺の胸の辺りに来た彼女の頭からは、女の子の甘い匂いと、彼女特有の干し草のような匂いが混ざった何とも言えない匂いが鼻をくすぐる。

 静かな空間に、女の子と二人。その非日常感たっぷりの状況に、体中の熱が頭に集まっていくのを感じた。


 しかし俺のそんな状態には全く気づいていないかのように、彼女は何を思ったか、そのまま俺の胸にぴたりと自分の耳を付け、しばらくの間押し黙ってしまった。


(何これ……俺どうすりゃいいの)


 まさか抱きしめていい訳もなく、俺は仕方なく、宙に浮いた両腕を後ろに回した。

 静かだが、熱い彼女の吐息が胸にかかる。外套越しなのに妙に柔らかいその体を押し付けられ、俺はいよいよ直立不動となってその蛮行を耐えしのぐしかなかった。


 やがて、彼女は俺を下から舐めるように見上げると、その宝石のような蒼い瞳を、無防備に俺に向けた。


「……ふふ、なるほど。本当に面白いな、君は」


 そう言って、彼女は俺の胸をついと指で軽く押すようにして俺から離れると、


「推理はいささか乱暴だし、このままごまかせると思ったんだがな。困ったことに、君は本当にそう思ってしまっているらしい。これではもう隠している意味がないな」


 と、彼女の口調に違和を感じた、その時。

 突然、彼女の羽織っていたその外套の奥から、光が漏れ出て来た。かと思ったら、それは次第に強い光となってあっという間に牢屋の中を包み、俺はそのあまりの眩しさに、思わず手で目を覆った。 

 薄暗いはずの牢屋が、煌々とした光に包まれる。しかしそれは長くは続かず、数秒の後、すぐに元の薄暗い牢屋に戻った。

 

 一体何が……と、改めて彼女の方を見てみて、俺は目を見張ってしまった。

 わかってはいたが、やはりこうして実際に目にすると、本当にこんなことがあるのかと驚きを隠せない。


 そこにはもう、俺の知っている彼女の姿はなかった。

 恐ろしい程に透き通った、色素の薄い肌。一見真っ白のようにも見えるが、よく見ると薄く青白磁色の載った、絹糸のような光沢のある長い髪。

 そこに居たのは、透明感をそのまま具現化したかのような、美しくも威厳のある少女。


 やっと、ようやく、会えた。

 感動のあまり、俺は不敬だとは思いつつも、思わず彼女の名前を口にしてしまっていた。


「──ソフィーリア・ネティス・ファルンレシア」

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