Scene 24

ミュペが何か呟いて、すると皆の気が逸れた。


私はミュペに連れられて建物を出た。


夕陽が消え始めたとき、建物も消えていった。


「あの人が牛に見えるの」


ミュペが尋ねてきた。


私はうなずく。


「その事、なるべく言わないでね。


あの人達は本当の姿を見られたくないと思ってるから」


「人」なんだ、と思った。


言葉が通じるからなのだろうか。


「どうしてあの人達は普通と姿が違うの?」


「キミは優しいから、私に合わせて『人』と読んでくれるようだ」


私の目を覗き込んで言う。


「どうしてあの人達の力が及ばなかったんだろう。


キミの体質によるのか――。


あの人達は魔法で姿をぼかしていたんだ。


けれどキミはそれを見破った。


キミは今まであの人達を……ううん、『私達』を見たことがなかったんだよね」


日差しが頬に置き忘れた熱をミュペの冷たい手が掬い上げた。


何か懐かしい感じがする。


心地よかった。


「ミュペも人間じゃ――私と同じじゃないんだね」


「キミとは違う。


生まれた時から言葉を知っていた。


いや、言葉を知ることが私の始まりの……ような……気が、する。


キミに負担をかけたくないから黙ってたんだ。


ごめん」


「いいよ。


最初から知ってたし。


魔法を使う人なんて会ったこともないもの」


「魔法を使う人間族が――キミみたいな人がいるのは本当だよ。


私もそういう人に魔法を教わったから。


そしてこの世界には魔族も――私達もいる。


架空じゃなくて本当にね」


「けど、なんだか安心した。


ミュペも、あの、ギルド? の人も、悪い人じゃないみたいだし。


小さい頃怖がってたお化けよりは全然平気」


「でも全部が良い人ってわけじゃないんだ。


悪い魔女もいるんだよ」


「例えば?」


ミュペは何か言おうとして、やめたようだった。


その時、数人の人が一つの大きな棺を支えて横切って行った。


棺の中にはミイラと白い花が入っていて、ミイラは王冠を被り、手には剣を持っていた。


ミュペは私を引いてそこからどかせ、その人達を通した。


「びっくりした。


流石に精神やられそう」


「……キミは何か特別な力を持っているみたいだ。


物事の本質に迫る何か重要な……力を。


キミの世界に魔族はいないみたいだし、魔法もないみたいだ」


「一応。


多分いないと思う」


「キミの力はキミがここに来る時に目覚めたものだと思う。


原理は分からないけどね」


ミュペはそう言って、私をまた箒に乗せた。

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