Scene 20

「閉」


ヌゼッテが口にする。


全てが裏返る。


夜が昼に。


吹き抜けが地面に。


床が、天井に。


ぶら下がった。ヌゼッテは。手摺りに。階段の。


つかまった。私は。ミュペに。宙に浮いた。


「ここは……」


景色が移り変わる。


ヌゼッテの記憶が雪崩れ込んできた。


小さな人形。







ガラス窓の向こうにミュペの姿が映る。


ミュペは小さな人形を抱えていた。


ガラス窓の中で、ミュペの胸から溢れ出た光が、陶器に冷たく刺し、金の絹を青白く染め上げ、乾いたドレスを潤す。


「ナマ・クリョマ。


ナマ・クリョマ。


一番近くにある光。


キミの刻は動き出す」


ガラスに映った唇の動きが澄んだ音を紡ぎ出す。


綺麗だと思った。


視界が暗くなった。


音が聞こえなくなった。


「ミュペ……?」


「ごめん。


これはヌゼッテの話だから」


「うん」


ミュペのことを信じると決めたけど。


それはそれとして、不謹慎かもしれないけれど、そんなことを言われたらなんだかドキドキする。


人形達が動き出す。


人形が手すりに、人形が人形にぶら下がってできたスクラムは、ちょうどそれが倒れ込むように、振り子となって襲いかかる。


ミュペと私は後ろに避けてかわした。


けれど人形達は腕をにめり込ませては引き抜いて、とてつも無い速さでこちらへ向かってくる。


私達は天井・・に向かって急降下した。


ミュペは床を振り向くと、指を前に出して二言三言呪文を唱える。


現れた剣を引き抜いて鞘を持ち、剣を私に預ける。


「殺すの?」


「殺さない」


人形達が降ってくる。


私達は中空に留まってかわす。


人形達が天井とぶつかる音がして、私は身震いする。


上を見上げている今、構っている暇はない。


ヌゼッテは手摺りから冷たくこちらを見下ろしていた。


不意に、体が締め付けられる。


「何?」


見えない糸が私をぐるぐる巻きにしていた。


「私のミュペに触れないで……!」


見ると、地面から天井まで伸びた糸が私とミュペに巻きついている。


それらを器用に操って、人形達が一斉に動くと、私達は分断される。


糸を切ろうとした私は自由な方の腕で剣を振り回したが、当たっても切れる気配はない。


糸を伝って人形達は登り、そしてくだってくる。

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