Scene 13
家に帰ると、ミュペはすぐに料理を持ってきた。
「昨日は用意できなかったけど、ディナーはね、ここでは一品ずつ出すんだよ」
そう言うと、前菜らしいそれを机の上に置く。
「ミュペって二人いるの?
この料理も片方が作ったとか?」
「キミはできない?」
「普通の人はできないね……私の世界だと」
「そっか。
こっちだと普通なんだ。
昨日も会ったよね」
「やっぱり」
こっちだと普通なんだ、と言う時に目が泳いだのを見逃さなかった。
「別に、キミを取って食おうって魂胆じゃないんだ。
人の肉って不味いらし……じゃない、私は人だから、人を食べたりしないし」
昨日私が尋ねたことが気になっていたのだろう、ミュペはまた安心させるように言った。
「全部手作りだよ。
カエルさんとかが入ってる訳じゃないから、安心して」
今まさに、カエルが入ってたらどうしようとか思ってた所だったのだけど、この子は人の心がある程度読めるらしい。
美味しい料理を頬張りながら、なんとなくミュペが怖くなってくる。
どうして、私にここまでしてくれるんだろう。
小さい子供、だけど中身は深く、怖い。
「お風呂入ってくる」
食べ終わった後、ミュペに言った。
ここは魔女の家、何をしていても監視されている感が否めない。
近代より前はプライバシーなんてなかったと、歴史の授業か何かで誰かが言っていた。
お風呂が誰かに覗かれていない保証はないけれど。
風呂場では昨日とは違う香りが、ふうわりと身体を包んだ。
砂の匂い、と言うとしっくりくる気がした。
水と空気は砂のように流れている。
私は身を浸す。
昨日風呂に入ってから、自然とこの家に親近感が湧くようになったのだった。
どうにもできないこの感情を流したいと、また風呂に入ってみたけれど。
意識的に消えてくれるものとは違うのかもしれない。
息が詰まった。
手には鍵が握られている。
魔法の文字のようなものが描かれていた。
ふと、風呂場の底に、鍵穴のようなものがあった。
呆気に取られていると、手から鍵が滑り落ちて、はまる。
私はそれを拾おうとして、捻ってしまう。
何かが開いた。
水の砂の海が、渦を巻き始めた。
渦はどんどん大きくなって部屋中に広がって……。
私は渦に巻き込まれてしまった。
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