Scene 11
二人がこちらを向く。
「ええと……何を言えばいいのか……」
自分でも思考を整理できないでいた。
思考より言葉が先に出るこの癖をさっさと治してしまいたい。
元の世界でも友達に変人扱いされたし。
でも今ここで何か言わなければならない気がした。
「何よ」
「えっと……その……」
何か言わなきゃ。
またミレの顔が近くなる。
「こら、怖がってるだろう」
ミュペが割って入った。
そういえば。
とっさにまた言葉を出した。
「ミュペって誰にでもキスとかするの?」
その瞬間、周囲が固まった。
酒場が――確かに酒場では誰も喋っていなかった。けれどそれとは別の意味で――静まりかえっている。
「……何?」
混乱していた私は、自分で何を言ったのか分からなくなっていた。
「ミュペ」
沈黙を破るように、ミレが口を開いた。
「もしかしてあなた、初対面の相手にキスしたわけ?
嫌がる子だっているんだから、許可取るくらいしなさいよ」
「それくらい知ってる」
ミュペが食い気味に言った。
ミレは怪訝そうな顔をする。
「そりゃ、何も説明しなかったのは悪いと思ってたさ。
けどキミが急に来て美夜に手を出そうとしたから……」
「あら、私はこの子が変な魔法陣に囚われてたように見えたから外に出してあげようと思っただけよ」
「キミの毒気から生身の人間の身を守るには適切な処置だ。
あとあれは魔法陣じゃなくて魔法円だから。
環形術式には襟巻き型とトグロ型があってトグロ型は冗談度数が二以上かつ基本駄洒落半径が……」
「話題を逸らして無意味なことを言っても、動揺してるのがバレバレだわ。
私の推測が正しければあなたの魔法陣……魔法円でもいいけど……役割は情報の操作。
自分に都合の良い言葉だけが入るようにしてあった。
そうじゃないの?」
「そんなことは……」
会話を聞きながら、私は茫然としていた。
取り敢えず、キス=契約ということで良さそうだ。
で、媒介というのが、何かしらの条件を満たしてる――例えば、契約してるとか、かな――そういう人のこと。
まあ私の身を守ってくれた訳だから、キスくらい別に何も問題はないんだけど。
いや、全然よくないな。
さっき質問した私が馬鹿みたいじゃん。
そしてミレの反応からしてこの国でキスというのはどうやら挨拶感覚でするものらしい。
薄々分かってはいたけど。
でもね。
私が地球人だと知った時ぐらいにはそのことを教えて欲しかったなあ。
……まあ美人だから……じゃない、一応友達同士だし、ノーカンってことにしとこう。
うん。
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