Scene 10
その日の夕方だった。
「用事がある」と言ったミュペは、一人で家を出ていこうとする。
手には箒を持っていた。
「私もついて行っていい?」
「どうして?」
「なんだか私抜きで話が進められててモヤモヤするし」
ミュペは呆れたらしい。
それでいて一理あるから、困ってしまったようだ。
「家に帰るまで私から離れないでよ」
「それぐらい」
私はミュペにつかまって箒の後ろに乗せて貰い、先日と同じようにして舞い上がった。
風をなぎ払えば、空の道は開けて、街の外れへとたどり着く。
「ここは夕方にしか存在しない」
言われてみると、なるほど夕焼けの光はその建物を映すけれど、光が当たらず陰になっている部分は街の影と一体になっている。
昼なら街からは影が消えて、夜なら光が消えるから、西から丁度良い光が当たって影も光も出てくるこの夕方にしか入れないというのは妥当だ。
一人で納得していると、ミュペは私の手を引いてそちらへ向かっていく。
「これ、恥ずかしいんだけど」
「離れちゃ駄目だよ」
私はミュペに振り回される。
なんだか思わせぶりな事ばかり呟くけれど、本人はいたって冷静で、緊張したり照れたりしている自分が馬鹿みたいに見えてくる。
扉を開けた建物の内部は外観より広く作られていた。
入った正面には吹き抜けのある酒場のような場所が見える。
その広い酒場を、巨人が歩き、翼のある人間が宙を舞い、物の怪が、
「ちゃんと連れてきたのね」
私達が向くと、玄関の扉の後ろから――つまり、入った扉を回り込んだところから――ミレが顔を出す。
「ミレ……」
「何よ。
まさか、媒介を示しただけで満足したとでも思ってるのかしら」
そう言って、その顔を私に近づけてくる。
ミュペがその間に割って入った。
手を繋いでいるから、私はまたぐるりと回る。
「こんな可愛い子に務まりそうにはないけれど。
媒介を使うつもりなんて最初から無さそうね」
「キミが煩いから用意しただけだ。
そもそもギルドに入るのにそんな規定はない筈だろう」
「いいかしら」
ミレはそう言うミュペを遮って言った。
「この国のルールはデュエル。
デュエルで相手を負かすには媒介を使わなければならないわ。
私はね、ミュペ。
昨日まであなたがそれを持ってなかったということ自体、納得がいかないのよ。
しかも昨日たまたま契約した子をそのまま使うだなんて、なんて適当なのかしら」
「手頃なのが見つかったら、すぐにでもこの子は解放するよ。
なんなら、キミでもいい」
「……えっ」
私は声を上げた。
少し考えてから、ミュペの方を向いて声を上げたのだった。
ミレは呆れた顔をした。
「……本当に、もっとよく考えて欲しいわね。
生憎ねぇ、私には先客がいるの。
あなたの気まぐれに付き合わされる」
人の身にも、という言葉と、私の「待って」という言葉が重なった。
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