Scene 9

「ミレ」


ミュペが顔を上げた先は、昨日の少女がそこにいた。


髪は漆黒、目は真紅、肌は青ざめて、華奢な手にはいくつもの金の指輪をはめている。


歩み寄ると、その重みのある真っ直ぐな髪が遅れる。


「答えを聞かせて頂戴。


私はもう待っことはできないわ」


風が吹いて、なんとなく周囲が暗くなったような気がして見渡すと、人がそこそこ集まっていた筈の広場は静まって、妖しく霞みがかってくる。


建物の陰から何かが覗き込んできている。


気がつけば、霞の向こうに何人もの人影が映り込んで、三人を取り囲んでいる。


羽音、蹄の音などが、そこから聴こえてきていた。


視線を、感じる。


「さあ、ここで今すぐ宣言しなさい。


あなたの“媒介”は何なのか。


……ちゃんと持ってきてるんでしょうね」


「ああ」


ミュペはそう返すと「ごめん」と一言言って、私の手を取った。


「この子がそうだ」


「あら」


周囲の空気が変わる。


どこかから重々しい声がする。


声がしたことは分かるが、何と言ったのかは分からない。


「これで良い?」


「まあいいわ。


……これがカギよ」


「ありがとう」


ミレは背を向けて霞の中へ歩いていった。


周囲の明るさが戻った。


霞も、映り込んだ影も、消える。


「緊張した。


でも、分かってくれたみたいでよかった」


茫然としていると、ミュペがそう言う。


「媒介って、どういうこと?」


私が聴くと、


「いや、キミは関係ない。


本当だよ。


本当に、少しの時間だけ……数日だけいてくれればいいんだ。


時間が過ぎたら好きな時に出てってもらっていい……ずっと私の家にいてくれてもいい」


ミュペは、その後に「ただ、今だけは私の……」と呟いた気がしたけれど、その声は風に流されて消えてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る