Scene 8

「気持ちいい?」


ミュペのしなやかな指が髪をといて、暖かい風が抜ける。


大部屋の真ん中で、宝石でできたドライヤーで私の髪を乾かしていく。


このドライヤーはいつでも適度な熱を静かに送ってくれ、かければ髪が煌めいて見えるのだという。


「気持ちいい……もうずっとここにいてもいいかも」


「本当?」


何か忘れている気もするが、今はどうでもいい気がしてきた。


「じゃ、今日はちょっと私について来てくれるかな」


「いいけど……」





家から出る頃には街は活気づいて、往来は人々で溢れかえっている。


「ねえ、次はどこへ行きたい?」


繁華街は都会から帰ってくる人、学生達で賑わっていた。


今日は祭りの日だった。


私たちは朝食・昼食ともに露店の例の固いパンで作った色々な具材のサンドイッチで済ませて、ミュペの片手には大きな飴のような菓子の塊、もう片手には私が選んだ大きな縫いぐるみ。


楽しんでるなぁ……。


「歩くの疲れたし、ちょっと座りたいな」


私がそういうと、「そう?」と言って、「じゃ、こっち来て」


小さな公園の一区画に連れていってくれた。


空を四角く切り抜いたレンガの住宅の麓には四角く廻る石畳、その中心には芝生に囲まれて大きな桜の木。


「喉渇いたでしょ。お水取ってくるね」


麓の椅子に私と縫いぐるみを残し、店の方へと向かう。


「はい、どうぞ」


ミュペは私には不思議な香りのついた水を、自分には何かの木の実にストローのようなものが刺さったものを買ってきた。


「それは何?」


「飲む?」


そう言って私の方へ差し出してくる。


さっきまでミュペがそれを吸っていたから、間接キスになるのでは……。


いや、それは考えすぎか。


でも昨日や今日の朝のことを考えると、そんなに冷静にもなれないんだよね。


苦笑しながら飲む。


昨日とは違って強いアルコールのような匂いが喉を焼く。


「よくこんなの飲めるね」


そう言って返す。


「いや、飲んでると落ち着くんだ。


今、すごくドキドキしてて」


「ドキドキ……?」


それはどういう意味なのか、計りかねていると、


「見つけたわ。


さ、今日こそ教えてもらうわよ」


そう呼ぶ声がした。


昨日も聞いた声だった。

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