Scene 7
鳥の鳴き声がする。
聞いたことのない鳥だった。
目を開ければ微光が広がっている天井、薄ピンクのヴェールが、昨日のことを思い出させる。
ベッドと窓のカーテンは、寝ている間に閉められていたらしい。
窓を開けると、冷たい空気、
日はまだそれほど高くない。
「おはよう。
お風呂に入るんだよね。
沸いてるから、入って」
部屋を出た時、丁度ミュペが外にいて、着替えと、タオルを何枚か渡してくる。
「あの、昨日のことなんだけど……」
そういえば、と、どんな仕事をさせようとしているのか気になった私は、昨日ミュペに届いた手紙について尋ねた。
「ええと、まあ一緒にここに住んでくれればそれでいいよ。
キミ、魔法使えないでしょ」
「まあ……」
「だからキミは……」
そう言いかけたところで、下の階だろうか、階段の方から、ドアを叩く音が聞こえてきた。
「早くお風呂に入って。
出来るだけ音を立てないように……。
キミはだんだんお風呂に入りたくなってきた」
そう言われた途端、なんだか記憶が曖昧になって、今話していたことがなんだったのか、忘れてしまった。
「さあさあ」
背中を押されるまま、私は脱衣所に押し込まれた。
広い部屋に、箪笥が、窓際からこちらまでに到る右側の壁を、やはり敷き詰めるように並んでいる。
向かって左側も、私の部屋よりは狭いようだったが、奥まった部屋に、手前には金色をしたパイプのついたトイレと純白の洗面台があり、部屋の中心に、カーテンのついた一杯の小さな湯船が、ちょこんと置いてあった。
私はどうなるんだろう。
正直、こんなに親切にしてもらっていることに、何か裏があるんじゃないかと考えないわけじゃない。
私の身柄がこうしている間、どこかで取引されているとも知れない。
けれど相手は魔女、ここは異世界、逃げてどうにかなるものだろうか。
今は信じるしかない。
歩いてバスタブへ向かううち、衣服が脱げていって、張られた湯に足を浸せば、身体中をじんとした香り高い熱が通り抜ける。
湯船には湯の川を流しているらしい、黄金の湯に浮かんだ緑の月のように、奥の方から――その湯船には奥があった――蓮の葉が流れてくる。
両脚にこびりついた余分なものが、洗い流されていく。
シャワーがどこからともなく延びてきて、私はそれを取ると、湯が勝手に流れて、身体を流した。
暖かい……。
風呂場から上がると、タオルが勝手に体に纏わりついてきた。
着替えを下着しか貰っていないことに気がついて、取り敢えずブラジャーとパンツ(ズロースのように見える)を着ていると、急にドアが開いて、ミュペが入ってきた。
「急にごめん」
「わ、どうしたの?」
私は思わずタオルで身体を隠した。
「いや、大したことじゃなくて、服渡し忘れたから」
ミュペが私の近くまで迫ってくる。
下着姿を見られていることと、整った顔が近くにあることで、言葉がそうすぐには入ってこなかった。
「ああ、まあ、別にいいよ。
そんな気を遣わなくても。
なんなら昨日の着るし」
「遠慮しなくていい。
キミの服は今洗濯してるからまだ着られないが、私も服を作るのは得意なんだ。
こっちにきて」
そう言われて洗面台の横の鏡に導かれると、そこにはピンクと白の服を着た私の姿がある。
自分の姿を確認すると、いつの間にか、鏡の中の服が写って、その通りの服を着ていた。
襟とスカートの淵とに赤のリボンでアクセント、袖は慎ましくまとまって、フリルの装飾が見える。
「か、可愛い……」
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