Scene 6

階段を登ると、うってかわって沢山のドアがある広い廊下に出た。


奥の突き当たりの向こうから来るらしい窓から夕陽がかった光がさして、全体はほのかに明るく、床は、何かの布が敷き詰められていて、淡いピンク色をしている。


さっきミレとかいう子が周りを勝手に夜にしてしまったから混乱していたが、あれは幻のようなもので、本来はこの世界の時間は夕方なのだろう。


「広いね……」


「便利だからって部屋を増やしてみてよかった。


みんな頭が鈍いんだよ。


役所の人は玄関の大きさで税金を決めるから、玄関が大きければ税金を取られるけど、だからって土地を広くすると玄関も広くしなきゃいけないわけじゃない。


家の中に土地を入れてしまえばどれだけ土地を広くしてもお金が取られない。


ここに気がついてないのさ」


「ふうん……」


なんだか言いくるめられているような気分になったが、まあ問題ないのだから良しとしよう。


「奥から順に中庭、バスルーム、リビング、私の部屋、キミの部屋、図書室、で、一番手前がクリケット広場」


私がまたキツネに化かされた気分になっていると、


「じゃ、私ちょっと用事があるから。


ゆっくりしてて」


そう言って、どこかへ消えてしまった。


風呂に入ろうかと思ったが、使っていいのかどうか聞いていない。


割り当てられた部屋に行こうとすると、そのひとつ奥の部屋からまたミュペが出てきた。


「ああごめん、もう一人の私どこ行った?」


「知らないけど、多分この家のどこかに居ると思う」


そこで、私は疑問に思ったことを口に出す。


「……私、どう見える?


おいしそう?」


「何のこと?」


その時、ちょうど太陽が山の向こうに沈んだ。


「もう遅いから」と言われて、言われるまま自室に押しやられる。


ミュペは部屋を閉めて、またどこかへ消えてしまった。






広い部屋に大きめの屋根付きベッドがひとつ。


部屋の遠くには暖炉が燃えて、その近くに、可愛らしいソファーが見えた。


懐かしい匂いがする。


こちらの感覚が麻痺しているのかもしれないが、部屋は絵画やら、高級そうな皿が飾られた棚やらが壁際に置かれている他は、間取りを間違えたとでも言わんばかりに広い。


いや、よく見れば部屋は薄ら埃を被っていたのだが、まだ赤い空の光をたよりに目を凝らせば、途中からプッツリとそれがきれて、床が綺麗になっている。


まるで、ついさっきまでそこが無かったかのように。


背中からベッドにダイブした。


結局、分からないことだらけだな。


仕事のことは教えてくれないし。


疲れてはいたが、色々と疑問があって、こんなに早くから眠れるはずもない。


ポケットからスマホを取り出す。


圏外。


何度も繰り返したことだった。


ここでも、電波は届かない。


起き上がって、窓辺に置かれた揺り椅子に座った。


窓を開けると入ってきた風が肌を刺す。


この家の外は恐ろしいほど寒い。


窓を閉めた後、一時間ほど外を眺めていた。


そのうち月が出た。二枚。


私はそれをじっと眺めている。


何も思い出されない。


元の世界に未練が無いわけじゃないんだけれど。


ミュペが何かを隠しているようだったが、こちらに敵意はないと思うことにした。


またベッドに寝転んでいると、今度は疲れが吸い込まれていくような感触が心地いい。


いつのまにか眠りについていた。

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