Scene 5
ミュペは私をまた抱きしめた。
「ごめん。変なことに巻き込んじゃって。
でも、もう大丈夫だから。
今、ご飯作るから、そこに座ってて」
ミュペが指差した先に、大きな長椅子があった。
返事が遅れる。
あんなに凄いことがあったのに、ミュペの服から香る香水が、だんだんと私に落ち着きを取り戻してくれる。
ちょっとした気恥ずかしさも。
「羊の肉、食べれる?」
「そんなに食べたことないけど」
ミュペは私の方を掴んで、覗き込んだ。
こうしてみると、陶器のような肌、そこにうっすらとさした頬の色、灰色の瞳、時計細工のように繊細に整えられた顔。
なんて綺麗な女の子、と思うと、緊張して、まともに目が合わせられない。
ミュペは私を離して、奥の調理場に向かう。
キス――何か考えがあってしてくれたんだろうけど、まだ、ドキドキする。
出てきた食べ物は、硬いパン、キノコのスープ、何かの漬け物、白いソースに入った肉。
グラスにワインが注がれている。
スープを食べるためのさじがある他は、手掴みで食べるらしい、手を洗う水がある。
ミュペは水に指を浸してから、肉を掴むと、パンに乗せて、口に運ぶ。
頬張った後のその手にはやはり何もついていない。
私も水に指を入れて、ソースのかかった肉を掴むと、掴んでいる時には確かにその感触がするのに、一度それを指から離すと、指についた水がいずこかへ洗い流してしまうかのように、何も残らない。
私はパンに乗せてそれを食べた。
肉の臭みがない、あっさりとした味がする。
パンの食感も、さくさくしていてとても美味しかった。
ミュペは漬け物やスープにもパンをつけていたが、私はそれをせずに食べてみる。
漬け物は酸っぱくて辛く、スープは、さまざまなキノコの芳醇な香りがする。
ワインはとても甘い。
アルコールの匂いはしなかった。
「魔法使いって、この世界だと普通なの?」
食べ終わった後、私はミュペに聞いた。
「別に。
私は……ちょっと趣味と商売でやってるだけ。
そう、商売だよ、商売」
「ふうん……」
「そ、そんなことより、部屋を案内するよ。ついて来て」
「本当に住まわせてくれるの?」
私は少し気後していた。
こんなに親切にしてくれているのだから、何か手伝うことがあればしてあげたくもなる。
「もちろん。
私は魔法使いだから、キミは働かなくていいし……」
そのとき、バサバサと何かの羽ばたく大きな音がした。
ついで、一羽の烏が、階段から部屋に入ってくる。
その足には手紙が握られていた。
「どうしたの」
ミュペは言って、受け取った手紙を広げる。
暫く読んで、私の方を向くと、急に手を取った。
「ごめん、少しだけ働いて貰わなきゃいけないかも」
「ええ?」
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