【短編】キラーズ・ハイ

宜野座

キラーズ・ハイ

 無性に腹が立つ。理由は分からない。

 分からないというのは思い当たる節が無いという意味ではなく、むしろその逆で、見えるもの、聞こえるもの、感じるもの全てに対して怒りを覚える中で、一体どれが決定打となってこれほどまでにはらわたを煮えくり返らせているのか、その絞り込みができないという意味だ。

 自分に対する苛立ち、他人に対する苛立ち、環境に対する苛立ち、どれもが最大限にまで膨らみ、それでいて爆発させることもできないまま、時間だけが過ぎていくことにまた苛立つ。


 このままじゃ自分に潰される。


 だから、せめて少しでも気を紛らわせて現実逃避できるように、ゲームへのめり込むことにした。18歳未満は購入が制限されるような、人殺しゲームだ。

 リアルな街並みに溢れ返る一般人を、金属バットで屠る。銃はダメだ。飛び道具では殺している実感が湧かない。こういうのは、自分の手に広がる「実感」が大事なんだ。

 次から次へと手当たり次第に獲物を仕留める自分、そしてその光景を目の当たりにして阿鼻叫喚に包まれる人々。

 これだ。この非日常感が、鬱屈な日々を忘れさせてくれる。ドーパミンが大量に放出され、全身に活力が満ちていくのが分かる。いわば「キラーズ・ハイ」とでもいったところか。

 もちろん、現実の世界でこんなことをしてはいけない。ゲームはゲーム、現実は現実。きちんと分別はつけるべきだ。

 今は徹底的にこのゲームを楽しんで、ゲームを終えたら今一度自分の中のフラストレーションと向き合おう。苛立ちの悪循環を断ち切るきっかけが掴めるかもしれない。

 そう考える自分の手に、コントローラーではなく血だらけの金属バットが握られていることに気付いたのは、複数のサイレンの音が耳に届いてからだった。

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