第344話:ユージュラッドへの帰還
慰労会の後、数日はゆっくりと過ごしたアルたちがユージュラッドに戻る日がやってきた。
「うぅぅぅぅん! なんだか、とっても長く感じる魔法競技会だったわね!」
「あはは……そうだよね、魔法競技会でカーザリアに来てたんだよね、私たちって」
大きく伸びをしているクルルに笑い掛けながらリリーナがそう口にした。
デヴォルガンデ討伐には参加していない二人だったが、それでもここ数日の出来事はあまりにも濃密であり、滞在した倍以上の時間が経っているのではないかと錯覚を覚えてしまう。
「あんなのにはもう出会いたくないわね」
「僕も同意だよ~。……やるなら、ちゃんと準備を整えてからかな~」
シエラがため息混じりにそう口にするが、ジャミールはどこか楽しそうに言葉を重ねた。
「私も行きたかったなー」
「フレイア、マジで? 私は絶対にパス! すぐに殺されて終わりだもんね!」
対照的な意見を口にしたのはフレイアとラーミアである。
「止めておけ、フレイア。アルでも苦戦した相手だ、お前ではやれても闇の眷属がギリギリだぞ?」
「そうよー? こっちはどれだけ心配していた事か……」
アミルダが笑いながらフレイアにそう告げると、その隣で大量の荷物を抱えたペリナがアルにジト目を向ける。
「悪かったと思ってます。でも、あの時はあれが最善の選択だったんですよ」
「……それ、悪いと思ってないわよね?」
アルの言葉にツッコミを入れているペリナを見て、宿屋にいた全員が笑い出した。……いや、一人だけ緊張した面持ちで口を引き結んでいる人物がいる。それは──
「まだ緊張しているのか──レイリア」
「……ほ、本当に、いいの?」
この場にいるほとんどがユージュラッドの人間であり、ユージュラッドに帰る者たちだ。
その中でカーザリア魔法学園のレイリアが交ざっているのは違和感でしかない。
だが、それも昨日までの話である。
「今はもう、レイリアもユージュラッド魔法学園の学生なんだから気にするな」
「で、でも、いきなりこの感じは……慣れない」
「少しずつ慣れればいいわ」
いまだに困惑しているレイリアに声を掛けたのはシエラだった。
「……シエラ?」
「最初から溶け込める人間なんて、そう多くないわ。レイリアも少しずつ慣れればいいの」
「そうだよ。シエラなんて、最初は俺に殺気を飛ばしまくってたんだぞ?」
「そ、そうなの?」
「昔の話よ。全力のアルを叩きのめしたかったから」
「それで、結果は?」
「……完敗。気絶させられて終わりよ」
最初こそ仲が悪かった二人だが、今ではシエラがレイリアを庇い助けようとしている。
その事に気づいたアルは嬉しく思い、ジャミールはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「……先輩、斬りますよ?」
「いきなりそれは酷いんじゃないかな~?」
「……斬る」
「ちょっと! マジでは止めて、いや、本当にさあっ!?」
ナイフを抜いて斬り掛かっていったシエラに本気で対処しているジャミールを見て、アルたちが笑っていると緊張していたレイリアの顔にも笑みが浮かんだ。
「私、リリーナ・エルドアです! よろしくお願いしますね、レイリア様!」
「私はクルル・リーズレット! よろしくねー!」
「あの、私は平民だから、様付けとか、いりませんよ?」
「大丈夫! 私も平民だからさ!」
「私は貴族ですが下級貴族ですし、お気になさらないでください!」
「えっと……その、分かりました」
前のめりになりながら挨拶をしてきたリリーナとクルルに若干引き気味のレイリアだったが、二人の気持ちが伝わったのか作り笑いではあったが頷いていた。
「はいはーい! 挨拶も終わった事だし、そろそろ宿を出るわよー!」
最後にアミルダが声をあげると、全員から『はーい』と返事があり、宿屋の外に出る。
すると、ロザンヌの宿屋がユージュラッド魔法学園の生徒が泊まっていると広まっていたのか、カーザリアの住民たちが集まっていた。
「魔法競技会楽しかったぞ!」
「優勝おめでとう!」
「魔獣を倒してくれてありがとう! 助かったぞ!」
至る所からそのような声があがり、アルは自分の戦い方が――剣術が認められたのだと嬉しく思っていた。
「……手でも振ってみたらどうだい、アル?」
「……いや、恥ずかしいです」
「そう? こういう時に株を上げておくと、後々役に立つ事もあるのよ?」
「分かってますけど……まあ、陛下の頼みもあるしなぁ」
時が来れば魔法国家カーザリアのために力を貸すと約束している。ここで株を上げておけば、いざという時の助けになるかもしれないのだ。
「……ありがとう!」
――うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉっ!!
アルが感謝の言葉と同時にこぶしを突き上げると、住民たちから大歓声が巻き起こった。
そして、大歓声に包まれながら王都カーザリアの門へと向かっていくのだった。
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