第334話:進化する魔獣⑦
最初の激突は速度でアルに分があり踏ん張れたものの、足を止めての鍔迫り合いはデヴォルガンデに分があった。
大きく飛び退いて距離を取ろうとしたアルを逃せまいと前に出てくるデヴォルガンデ。
そんな二人の間に飛び込んできたのはシエラだった。
「やらせないわ!」
『邪魔をするな、女!』
膂力に任せた右腕の横薙ぎが襲い掛かるがシエラは攻撃を加えるつもりは全く無く、回避に全神経を注ぎ込む。
それでも拳がナイフを掠る事で粉々に砕かれてしまう。
「くっ!」
『まずは貴様からだ!』
「はああああああっ!」
そのまま左腕の前に伸ばしたデヴォルガンデのその腕にアルディソードが振り下ろされる。
鋭い一閃が確実に左腕を捉えたものの、そのまま切り落とすまではいかない。むしろ、薄皮一枚を切った程度で終わってしまう。
「硬いな!」
『効かんぞ!』
「アル!」
「ちいっ!」
腕を振り上げて跳ね返されたアルだったが、直後にデヴォルガンデの足元にウォーターホールを発動させて追撃を妨げる。
『甘いわああああっ!』
「抜け出すのかよ!」
「ライトランス!」
大量の魔力を込めた威力重視のライトランスが飛び上がったデヴォルガンデへと放つシエラ。
回避する素振りも見せずに直撃を受けたデヴォルガンデだが、ライトランスに合わせる形でアルは極大のファイアボールを飛ばしていた。
ほぼ同時に直撃した二つの魔法によって生じた衝撃波がアルを吹き飛ばし、間一髪で追撃を逃れる事ができた。
「助かった、シエラ」
「ギリギリだったわね」
「これで多少のダメージがあればいいんだが……」
「厳しいでしょうね」
爆煙の中から下りてきたデヴォルガンデの外皮には傷という傷はなく、魔法によるダメージは皆無だった。
『……無駄な足掻きだな』
魔法の直撃を受けた箇所を眺めながらそう口にするデヴォルガンデにシエラは顔をしかめる。
どのように倒せばいいのか、デヴォルガンデが倒れている光景を想像する事ができないでいたのだ。
「……このままじゃあ、マズいわよね」
『くくくく。抵抗を止めて殺されるか、女?』
「ふざけないで! 魔獣なんかには絶対に屈しないわ!」
『ほほう。魔獣、なんかと言うか?』
シエラの反論を受けて、デヴォルガンデから放たれる殺気がさらに凶悪なものに変化する。
全身から汗が噴き出し、体がカタカタと震え出し、呼吸が浅く細かくなってしまう。
(……これが、本気の殺気だとでも、言いたいの?)
呼吸を整えようとしたものの、それでも体が動かない。
殺気に当てられただけで体の自由を奪われる経験などした事がなかったシエラにとって、デヴォルガンデは恐怖以外の何ものでもなかった。
「……下がれ、シエラ」
「…………ア……アル……」
「後は俺に任せろ」
『くくくく。ならば、貴様にも当ててやろうか?』
「やってみろよ」
「アル!」
シエラに向けられていた殺気の全てがアルへ向けられる。
あまりに危険だと判断したシエラが大声をあげるが、その時にはもう殺気が彼女を離れてアルへ向けられていた。
――ドンッ!
お互いがぶつかり合ったわけではない。魔法が衝突したわけでもなかった。
それでも起きた衝撃波は、お互いが放った殺気がぶつかり合った結果で生じたものだった。
「え?」
何が起きたのか理解できなかったシエラは驚きの声を漏らすが、二人の耳には届いていない。
衝撃波の音のせいという理由もあるが、お互いが気を抜けない状況にあるというのが一番の理由になっている。
それはアルの殺気も常軌を逸しているという事でもあった。
『……貴様、面白いな!』
「……このままやるか?」
『いいだろう! 貴様だけを相手にした方が面白そうだ!』
「シエラは兄上たちのところへ!」
「アル!」
「任せろ! いいな、兄上たちのところへだぞ!」
シエラの言葉を遮るように声を張り上げたアルは、全ての意識をデヴォルガンデに向けて再度激突した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます