第335話:進化する魔獣⑧

 ぶつかり合うアルディソードと拳によってさらなる衝撃波が周囲を破壊させていく。

 土が捲れ、大木だけではなく岩までもが砕かれ飛び散り、砂煙が巻き上がり視界が悪くなる。

 それでも砂煙の中からは打撃音や剣戟音が止む事はなく、むしろ激しさを増していく。

 そのせいもあり砂煙は止む気配を見せず、まるで二人の周囲だけで台風が起きているようだった。


『ふははははっ! 面白い、面白いぞ! 人間の分際で我とこうもやり合える者がいるとはな!』

「人間を甘く見るなよ! 貴様程度なら、俺じゃなくても倒してみせる!」

『笑止! 今まで我を殺そうと挑んできた者はゴミ同然に殺してやったぞ!』


 轟音響く中で一人と一匹は言葉を交わす。


『先ほど逃げた女も同じだ! 貴様を殺してから他のゴミと同様に殺してやる!』

「させると思うのか? 俺も舐められたものだな!」

『ふははははっ! 言っておくが、我が気づいていないとでも思ったのか?』

「何がだ!」

『女が逃げた方向は我が最初に吹き飛ばした男の場所だ! 奇襲でもするつもりか? それこそ笑止! 我に奇襲は無意味よ!』

「関係ないさ! 俺は彼女を逃がしたかっただけだからな!」


 アルとしては安全にシエラが逃げてもらえるようキリアンたちのところへ逃げるよう伝えていた。

 何故なら彼女の性格上、一人ではすぐに引き返すかもしれないと思ったからだ。


(兄上がいてくれれば説得してくれるはず。丸投げにばっかしてるけど、今回は緊急事態だから仕方がない)


 右拳が左頬を切り裂くが、アルディソードを切り上げて打ち払う。

 即座に左拳がうなりをあげて顔面に迫る。

 上体を逸らせて回避すると鼻頭を突風が通り過ぎていく。

 体を捻り首を狙う。剣身にはシルフブレイドを纏わせたウインドソードで切れ味を強化している。

 今までの斬撃とは違うと察したのか、今まで受け止めていただけのデヴォルガンデが回避行動を見せた。


『魔力操作はまあまあのようだな!』

「これなら斬れるってか? なら、斬らせてもらおうか! 弧閃!」

『むんっ!』


 ウイングと最速の剣技を掛け合わせた一撃は間違いなくデヴォルガンデを捉えた。

 しかし、魔力を纏わせた右腕は僅かに傷が付いた程度で食い込む事すらしなかった。


『ほほう? 傷を付けただけでも大したものだ!』

「終わりじゃないぞ――流線弧閃!」

『むおぉっ!』


 弾かれるその反動を活かしてさらにアルディソードを振るい、流れるようにして斬撃を浴びせていく。

 後ろに下がろうとも自らが前に出て距離を取らせない。

 デヴォルガンデも傷を付けられるほどの斬撃を、魔力を纏わせずに受けるわけにもいかず防戦一方になる――かに思われた。


『なかなかにやるが、それだけだ! サモン!』

「なに!?」


 デヴォルガンデの気配のせいか周囲に魔獣の気配は一切なく、勝手に一対一だと思い込んでいた。

 しかし、デヴォルガンデが召喚した眷族であれば話は別だ。

 レイリアが召喚した闇の眷族とは桁違いの威圧を放つ人型の眷族が二匹、アルの後方に顕現した。


『これで終わりだ!』

「疾風飛斬・烈風!」


 流線弧閃を中断して飛び退きながら疾風飛斬・烈風を二匹の眷族に放つ。

 一匹の首が飛び、もう一匹は胴体が細切れになる。

 優勢だった分、また一からやり直しかと思うと歯噛みしてしまいそうになるが、一筋縄でいくとは思ってもいない。

 大きく息を吐き出してデヴォルガンデを見据えようとしたアルだったが、そこには予想外の光景が広がっていた。


「……また、サモンか」

『ふふ……ふはは……ふはははは! こんなものではないぞ、我のサモンは!』


 先ほどと同じ個体の眷族がデヴォルガンデの後方に五匹顕現している。それも、先ほど倒した個体とは威圧感が桁違いだ。


「……図られたか」

『ようやく気づいたか? これから本番よ――貴様をいたぶるな!』

「くっ!」


 もう一度放った疾風飛斬だが、今度は直撃を避けて左腕を犠牲に前に出てきた。

 周囲を闇の眷族に囲まれ、正面からはデヴォルガンデがゆっくりと歩み寄ってくる。

 詰んだか――そう思った直後だった。


「ライトサークル!」

「ビッグバン!」

「サモン!」


 聞き馴染んだ声が響き渡ると、アルやデヴォルガンデ、そして闇の眷族の足元にライトサークルが顕現する。

 そこへビッグバンが炸裂すると三匹が眷族が消滅した。

 残った二匹の内の一匹にはデヴォルガンデが召喚したものとは異なる闇の眷族が飛び掛かり動きを阻害する。


「「はあっ!」」

『――!』


 そちらへ飛び込んでいったのは、吹き飛ばされたジャミールと逃げたと思われたシエラだった。

 鋭い斬撃がデヴォルガンデの眷族を両断し、その場で消滅する。


『ブジュルガアアアアッ!』


 残された最後の眷族が二人を殺そうと飛び掛かっていく――だが。


「スターレイン」

『――!!』


 二人の後方から放たれたスターレインの全てが一匹の眷族に命中した。

 腕や足が吹き飛び、腹を穿ち、首を撃ち抜いて消滅させた。


「……逃げろと言ったんだけどな」

「僕たちが、はいそうですかと言って逃げると思うかい?」

「せめて、闇の眷族は私たちに任せてちょうだい!」

「そういう事だよ~。その代わり、親玉は任せたよ、アル君」


 戻ってきたキリアン、シエラ、ジャミールが笑みを浮かべながらそう口にした。

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