第332話:進化する魔獣⑤
砂煙の中から伸びてきた首の一つの狙いは――キリアンだ。
その間に飛び込んだアルとジャミールが剣を交差させて受け止めるが、切り裂かれた首とは別の首がさらに蠢きキリアンへと迫っていく。
「はああああっ!」
後方から飛び出してきたシエラがキリアンと二つ目の首との間に飛び込んでいく。
二人とは違って魔法装具ではないが、ナイフと切れ味抜群の斬鉄で触手を細切れにしキリアンを助けた。
「助かったよ、シエラちゃん!」
「まだ来るわよ!」
「サモン! ウルフ!」
残り最後の首が砂煙を吹き飛ばしながら飛び出してくると、それらへ無数に召喚された漆黒の獣が噛み付いていく。
動きが僅かでも阻害されればそれでよかった。
「助かった、レイリア!」
「ナイスタイミングだね~!」
直後に飛び込んできたアルとジャミールが最後の首を細切れにして声をあげた。
「キリアン様は下がってください! ありがとう、レイリア!」
「――! ……う、うん!」
先ほどまで怒鳴り合っていたシエラからお礼を言われて驚いたレイリアだったが、戻ってきたキリアンに頭を撫でられるとやや俯いて照れ隠しをする。
だが、まだ戦闘が終わったわけではなく、むしろ佳境に入ったところだ。
「これからは予定通りのフォーメーションで行くぞ!」
「待って! アル、魔獣の動きがおかしい!」
「……これ、進化してるんじゃない?」
アルが前進しようとしたタイミングでシエラが叫び、ジャミールが顔をしかめながら口を開く。
キリアンとレイリアも様子を見ていたが、魔獣の肉体が変化していく様子に悪寒を感じていた。
「アル! 進化が終わる前に――」
「ダ、ダメです! 強力な結界が!」
キリアンの言葉を遮るようにレイリアが叫んだ。その言葉通り結界の中にいた漆黒の獣が搔き消されてしまい、直後には顔を失った三つの首が自らの周囲に集まってとぐろを巻いていく。
その姿はまるで繭の中に閉じこもっているようだった。
「近づけないね!」
「魔法も、通らない!」
至近距離から魔法を放つジャミールとシエラが焦った様子で声を張り上げる。
こうなればどうしようもないと判断したアルは、繭の中から出てくるだろう魔獣の気配を探る事にした。
だが――感じ取った気配にアルの全身から汗が噴き出した。
「……こいつは、マズいな」
感じ取った魔獣の気配は、フェルモニアを含めたアルが遭遇してきたどの魔獣よりも強大な圧力を放っていた。
「シエラ! ジャミール! 力を温存しろ! 兄上とレイリアもだ!」
瞬間、アルは無駄に力を使う事を嫌い今は何もしないよう指示を出した。
この選択が正解なのかは分からないが、アルの指示に誰も逆らう事はなく距離を取って魔獣の動きを注視する。
その間、誰もが結界が消えた直後に強力な魔法をぶつけようと準備を始めていた。
「……そろそろ、来るぞ!」
繭の中に留まっていた気配が増幅し、繭の隙間から溢れ出したのを察したアルが声を張り上げるのとほぼ同じタイミングで繭が弾け飛んだ。
周囲の大木を穿ち、薙ぎ倒し、吹き飛ばしていくほどの衝撃がアルたちに襲い掛かる。
「ライトサークル!」
「アースウォール!」
キリアンのライトサークルによって闇属性の魔力を含んでいた繭の破片が吹き飛び、その他に飛んできた障害物をレイリアが作り出したアースウォールが阻んでくれる。
それでも生じた衝撃波は消える事なく、アースウォールを破壊しながら突き進んでくる。
「ジャミール!」
「うおおおおおおぉぉっ!!」
繭の破片や障害物に交ざって進化した魔獣の腕がジャミールに襲い掛かっていた。
間一髪で気づいたジャミールはグラムで受け止めたものの、圧倒的な膂力によって吹き飛ばされてしまう。
「兄上はジャミールの回復を! 三人でこいつを止めるぞ!」
「もちろんよ!」
「はい!」
アルは仲間たちと共に、かつてないほどの強敵と相対する事になった。
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