第331話:進化する魔獣④

 こちらからの攻撃も撃ち落されてしまい、近づこうにも圧倒的な攻撃量によって押し返されてしまう。

 魔獣が力を落とす気配もなく、体力が無尽蔵だと推測される。


「こうなったら魔力消費を気にせずに一気に片付けるか?」

「それで決め切れなかったら大問題だよ~?」

「まあな。だが、これ以上は兄上たちを待ってはいられな――」


 そう口にした時、視界の端に見覚えのある影が姿を見せてアルは笑った。

 視界の先に目を向けたジャミールも状況を把握し軽く微笑む。


「……どうやら、キリアン様は上手くやってくれたみたいだね~」

「あぁ! これなら、一気に攻めても問題はなさそうだな!」


 二人は気合いを入れ直すと、視線を魔獣に向ける。


『グルオオアアアアッ!』


 咆哮をあげる魔獣は無数のダークバレットを顕現させると、二人目掛けて殺到させる。

 二人は体力の温存など気にする事なく加速すると、ダークバレットを回避しながら前に出て行く。

 魔法を放ち攻撃を加えていくが、それらは撃ち落されるか当たっても弾かれるか、傷を与える事ができてもすぐに治癒されていく。


「この治癒能力が厄介だな!」

「そうだね! どこか弱点でも見つかれば、そこへ一点集中で攻撃加えられればね!」


 わざわざ口にしながら情報を共有しつつ、その中でも魔獣の動きを観察していく。

 一気に加速したアルが間合いを詰めて斬り掛かるものの、その傷ですら治癒されてしまう。

 これだけなら何度も斬る事で倒せそうなものだが、一番の問題は帯びている魔力だった。


「……シンたちが関わっているだけの事はあるな」

「そうだね。魔力が吸い取られる」


 シンが持っていた魔剣デスポイドと同じ能力を魔獣も有していた。

 遠くからは圧倒的攻撃量で撃ち落され、近づけば魔力を奪われいずれは魔力枯渇に追い込まれる。

 さらに時間が経つにつれて進化を繰り返し強くなるとなれば、ここで仕留めなければ手の付けようがなくなってしまう。


「……仕方がない、まずは弱点を見つけるぞ!」

「了解。こういうのは苦手なんだけどねぇ……いくよ! ヘビーフォール! フレイムダンス!」


 一度に二属性の魔法を操り、ジャミールを範囲攻撃に切り替える。

 巨大なヘビーフォールを魔獣の上に作り出したジャミールだったが、すぐに動き出そうとする魔獣。

 そこにアルのツリースパイラルが発動して一瞬だが動きを阻害する。

 その隙にヘビーフォールが落とされるが、これといったダメージは見受けられない。

 だが、ジャミールの狙いはダメージを与える事ではなかった。

 次に放たれたフレイムダンスが魔獣の周囲を動き回りながら攻撃を加えていく。

 魔法に込められた魔力すら奪い取っていくので徐々にフレイムダンスは小さくなっていくが、その中で見つけたものが一つある。


「でも、まだ確定じゃないね~」

「それなら――アイスロック!」


 魔獣の全身を凍りつかせようと大量の魔力が込められたアイスロックは、アルの予想通りに足元から凍りつかせていく。

 もちろん魔獣もただ凍らされていくだけではない。アイスロックから逃れようと体を動かして砕き、魔力を吸い取り融かしていく。

 その中で魔獣が真っ先に守ろうとしている場所を二人はようやく見つけることができた。


「「――首の下だ!」」


 見た目には首の下を守っているようには見えない。だが、魔獣が纏う魔力の流れを見る事ができれば、魔獣がどこを真っ先に守ろうとしているのかはすぐに分かった。

 単発の攻撃では気づけないだろうが、範囲攻撃を連続で放つ事でわずかな危険をも避けようと頭が自然とそうさせたのだろう。


「――ライトサークル!」


 そこに響いてきた声に二人は笑みを浮かべ、さらに魔法を殺到させていく。

 だが、今度は先ほどまでとは違い魔法が魔獣に届く頻度が上がっている。魔獣の動きが鈍ってきているのだ。


「闇の力を減退させる事ができる光属性レベル4の魔法、ライトサークル。効果は抜群みたいだね」

「キリアン兄上!」

「キリアン様が来てくれたって事は~」


 魔法を止める事なく周囲を見極め、そして笑みを浮かべた。


「サモン! デビル!」


 巨大な闇の眷族、デビルが姿を現すと魔獣に絡みつき首の下を狙っていく――わけではない。

 次の攻撃への布石として放たれたデビルには大量の魔力が込められている。故に、首の下を守っていた魔力吸収はそちらに集中してしまっていた。


「ビッグバン!」


 そこへ放たれたのは、こちらも大量の魔力が注ぎ込まれた光属性レベル5の最大級魔法――ビッグバン。

 魔力吸収によって威力は落ちるだろう。しかし、それを見越して普段の倍以上の魔力が込められていた。

 デビルを用いてもこれほどの魔力を込めなければならないところは脅威でしかないだろう。


 ――ドゴオオオオォォン!


 だが、ビッグバンは確実に魔獣の弱点である首の下で炸裂した。

 粉塵が巻き上がり、周囲は砂煙に包まれる。

 距離を取り砂煙が晴れるのを待つアル、ジャミール、キリアンの三人。遠くからはシエラとレイリアも見つめている。

 しかし、誰も気を抜く事はしていない。何故なら――魔獣の気配は今なお砂煙の中で蠢いていたから。

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