第327話:魔獣の正体

 冒険者ギルドに到着したアルたちは、グレンが言っていた通り事前に連絡が行っていたようですぐにギルドマスターの部屋に通された。

 そこではリルレイが待っており、キリアンがいる事にも驚く様子はなかった。


「あなたが第一魔法師隊に入隊している事は知っていたわ。予想通り、アルさんと来たみたいですね」

「弟だけを危険な場所に向かわせるわけにはいかないからね」

「そして、君たちは以前にアルさんと同行して魔獣討伐に出ていたパーティ部門のメンバーですね?」

「まだ冒険者にはなっていないので、ここで登録もお願いします」

「僕も同じで~す」

「そうね……えぇ、実力も申し分なさそうですし、問題ないわ」


 実量を見極める力に長けているリルレイは二人の実力を見抜き、冒険者ギルドへの登録を二つ返事で受け入れてくれた。


「ジラージさんが聞いたら卒倒するだろうね」

「そうなんですか?」

「うん。優秀な冒険者を確保するのはギルマスにとっての評価にもつながるからね。シエラさんとジャミール君は優秀な魔法師であり、武術の心得もあるから一気にランクを駆け上がるんじゃないかな」

「うふふ。そこはアルさんを確保したわけだし、二人でイーブンじゃないかしら」

「二人掛かりでも勝てないわけだし、まだ足りないと思うわよ?」

「そうだね~。ここにクルルちゃんとラーミア先輩を足しても……まだ足りないかも?」


 二人からの評価を受けて少し恥ずかしくなるアルだったが、今はここで時間を費やすわけにもいかないので話を進める事にした。


「魔獣の正体なのですが、少し情報が錯綜しています」

「錯綜? 何か問題でもあったんですか?」

「最初はAランク相当の魔獣だと報告を受けていたのです。ですが……突如として進化が確認されました」

「進化……氷雷山で見たあれと同じか」


 アルは以前にオークジェネラルを討伐しに向かい、目の前でオークロードに進化した姿を目の当たりにしている。

 ポツリと呟かれた発言に驚いたのはリルレイだった。


「目撃した事があるのですか?」

「はい。以前に氷雷山で。あの時は仲間もいてギリギリ討伐できましたが……オークジェネラルがオークロードにです」

「オークロードですか……Aランク相当の魔獣ですね」

「本当、アルには驚かされてばかりだよ。魔獣の進化を目の当たりにしたり、それをそのまま討伐したり、Sランク相当のフェルモニアを単独討伐したり、話のタネに尽きないよね」

「……心配かけてすみませんでした」


 苦笑しながらそう口にしたキリアンに、アルは申し訳なさそうに頭を下げる。


「ふむ……ならば、やはりアルさんにお願いして正解だったかもしれませんね」

「どういう事ですか?」

「魔獣は今もなお進化を続けています。だからこそ、私が見繕った選抜隊でも返り討ちに遭い続けているのですよ」

「そういった事があったんですね」

「はい。ですが、臨機応変に対応できるアルさんに加えて同じくらい動けるシエラさんとジャミールさん。そして魔法に卓越したキリアン様がいれば、戦闘中に進化しても対応できるでしょうから」


 リルレイの説明を受けて、アルもこの陣容なら倒せるだろうと考えた。

 だが、懸念がないわけでもなかった。


「前衛は充実しているが、後衛がキリアン兄上一人というのが気になりますけどね」

「僕じゃあ不満かい、アル?」

「そうじゃないですよ! ただ、負担が大きくなり過ぎると思っているんですよ。せめてもう一人、後衛に特化した魔法師がいてくれるとありがたいんですが……冒険者の中にいませんか?」


 ギルドマスターであるリルレイに条件に合った冒険者がいないか問い掛けたアルだったが、その表情を見ただけで答えが分かってしまった。


「……いないんですね」

「ごめんなさいね。魔法師の冒険者がいないわけじゃないんだけど、どうしても冒険者になるのは魔法学園で上位になれなかった者がほとんどで、あなたたちと対等に戦える者がいないのよ」

「それじゃあ無理は言えませんね。下手な実力者だと足手まといになりかねないからなぁ」


 この陣容が最善だと言い聞かせるアルだったが、どうしても胸の奥で燻る不安が消える事はない。そんな時である――


 ――コンコン。


 部屋のドアがノックされるとリルレイが答えて開かれる。


「冒険者ではないのですが、一人だけ心当たりがあって呼んでいました。ですが、アルさんが承諾してくれればになりますが」

「俺がですか?」


 首を傾げながらドアから入って来た人物を見て、アルは即座に納得してしまった。


「確かに、君なら問題はなさそうだね――レイリア」

「……それで、答えは?」

「あぁ。問題ないよ」


 個人部門決勝戦に置いて、魔法技術だけでアルと渡り合ったレイリアの加入を即座に決めたのだった。

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