第328話:進化する魔獣
アルたちはすでにカーザリアの外に出ており、東の森に足を踏み入れている。
メンバーはアル、キリアン、シエラ、ジャミール、そしてレイリア。
アルとシエラとジャミールが前衛、キリアンとレイリアが後衛で魔法支援を行う。
バランスとしては申し分ないパーティなのだが、バランスが良いからと言ってそれが最高のパーティであるかと問われれば、そうではなかった。
「……」
「……」
「なあ、アル君。この空気、なんとかならないかな~?」
「そうだよ、アル。君がパーティのリーダーなんだから、なんとかしてくれないかな?」
「俺に言われてもなぁ……はぁ」
女性同士であるシエラとレイリアが不思議と険悪なムードを作り出している。そのせいもあってパーティ間の雰囲気は悪い方向へ傾いていた。
「……な、なあ、二人共」
「何?」
「なんでしょうか?」
「その、もう少しフレンドリーにしないか?」
顔を引きつらせながらそう口にしたアルだったが、二人からは簡潔な答えが返ってくるだけだった。
「してるわよ?」
「私もしてる」
「……だそうだ」
「「おいおい」」
男性陣へ振り返ったアルだったが、当然ながら納得してはもらえなかった。
強敵を目前にしてこの状況はあまりにも危険だとアルも理解しているが、今回だけはお手上げ状態だった。
「……なあ、マジでいい加減――っ!」
少しばかり強硬手段に打って出ようかと思った矢先、アルはとてつもない雰囲気を感じ取って口を閉ざした。
気配を感じたのはアルだけではなく、この場にいる全員が感じている。
「……来る!」
「リフレクション!」
――ガキンッ! ガキンガキンッ!
アルが声を発するのと同時にキリアンが魔法を放つ。
直後にリフレクションに衝突したのは漆黒の弾丸だった。
「今のはダークバレット!」
「くっ! レベル2の魔法がこれほどの威力とはね!」
「サモン!」
ダークバレットに反応できなかったレイリアだったが、すぐに気を取り直して闇の眷族を召喚して魔法が飛んできた先へ向かわせる。
「……え?」
「どうしたんだ、レイリア?」
「その……闇の眷族が、消えた?」
だが、闇の眷族はその存在をすぐに消失させてしまう。その答えは一つ――
「まさか、一瞬で殺された?」
「……使えないわね」
「なっ!」
「おい、シエラ!」
相手は未知の魔獣であり、進化を繰り返していると聞いている。
この場での仲違いはあってはならない事なのだが、シエラの口からはレイリアをバカにするような言葉が発せられた。
「私が行く」
「もう一度サモンを使う。それで情報を――」
「無駄に魔力を使わないで。不愉快だわ」
「ふ、不愉快なのはあなたの方! 私はみんなの力になろうとしているのに!」
「アルをバカにしていた奴らの仲間の力なんて、いらないわ」
「私はバカになんてしていないわ! バカにしていたのはヴォックスたちだけよ!」
そのまま言い合いを始めてしまった二人にキリアンもジャミールも苛立ち始める。だが、一番苛立っていたのはアルだった。
「いい加減にしろ! もうお前たちは動くな、いいな!」
「「アル!」」
「頭を冷やせ! 気持ちを落ち着けるまではここから動かさない!」
「それがいい。守るのも大変になるからね」
「それじゃあ行こうか、アル君」
「行きましょう、ジャミール先輩」
有無を言わせない迫力でアルが怒声を響かせると、リフレクションの中からジャミールと一緒に外へ出て歩き出す。
その背中を見送る事しかできないシエラとレイリアは、次の瞬間にはお互いに睨み合っていた。
「……君たち、今の状況が分かっているのかな?」
そこへ釘を刺すように口を開いたのはキリアンだった。
「アルは君たちを信頼して一緒にここへ来ているんだ。それなのに仲違いをして、アルの足を引っ張っている」
「足を引っ張っているのは彼女です」
「魔法が一度破壊されただけで足を引っ張っているというのはどうかと思う!」
「ほら、また足を引っ張り合ってる。……この調子なら今すぐに引き返してもらうけどいいかい?」
最後の言葉だけは声のトーンが一つ下がっていた。
キリアンの言葉が本気であると理解した二人は口を閉ざしたものの、睨み合いは継続している。
(……二人の力は絶対に必要になる。全く、年長者に面倒を押し付けたね、アル?)
内心でため息をつきながら、キリアンはどうにか二人が力になれるよう努力する事にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます