第326話:辺境の地からの精鋭たち

 本来であれば勝利を真っ先に報告しなければならなかった面々を見て、アルは不思議とホッとしていた。


「父上! 母上! それにキリアン兄上たちも!」

「殿下に呼ばれていたのだから仕方ないが、その後はこちらに寄るべきじゃないか?」

「すみません、父上」

「……冗談だ。優勝おめでとう、アル」

「……ありがとうございます」


 小さく微笑んだレオンを見て、アルは素直にお礼を口にした。


「本当におめでとう、アル! あなたは私の誇りだわ!」

「ありがとうございます、母上。でも、それは違いますよ。あなたも、ですよね?」

「僕たちは誇りじゃないんですか、母上?」

「俺はともかく、キリアン兄上は誇りだろう」

「あら! あらあら! そうね、キリアンもガルボも、アンナもブリジットも私の誇りよ!」


 拗ねるでなく冗談で片付けてくれたキリアンとガルボを見て、ラミアンは嬉しそうに微笑み二人を抱きしめた。


「それで、キリアン兄上。ついていこうかって、兄上たちがですか?」

「うん。命の危険があるからはっきり言うけど、ガルボは違うよ」

「だな。俺には荷が重すぎる」

「あら! 珍しく素直なのね、ガルボ」

「フレイアはうるさいんだよ!」


 同じパーティであるフレイアがガルボを茶化すと、少し恥ずかしそうにそう口にした。


「あはは。そうなると、父上も?」

「いいや、私は残る。ついていきたいところだが、ここでも貴族のしがらみがあるからな」

「あー……辺境の貴族がでしゃばるなって事ですか?」

「ふん。王都の危機に何を言っているのかと思うが、そういう貴族はどこにでもいるからな」

「そうなると、俺がでしゃばるのもマズいのでは?」


 三男とはいえ辺境貴族の子息である。レオンが叩かれる要因になるのではと心配になったが、そこは大丈夫なのだとか。


「アルの場合は冒険者として受けるんだろう? ならば問題はない」

「それじゃあキリアン兄上は?」

「キリアンは王都で第一魔法師隊に所属しているからな。優秀な冒険者に同行して魔獣退治に行くのも仕事の内だ」


 なるほどと思いながらも、そうなるともう一つの疑問が浮かんできた。


「……ヴォレスト先生は、絶対に同行できなくないですか?」

「だろうな。アミルダ、諦めろ」

「あなたはそれでいいの、レオン! 大人が王都にこもって、子供に討伐を任せるだなんて!」


 怒鳴るアミルダだったが、レオンはふっと笑い口を開いた。


「一人の親としては悔しい想いもある。だが、親離れをしたのだと考えれば耐えられる」

「耐えるって、単なるやせ我慢じゃないのよ!」

「実力に伴わなければ止める。だが、アルには十分な実力があるからな。そして、それを王族が認めたのだから信じるのも親の務めだろう」


 レオンがそこまで口にすると、アミルダは黙ってしまう。十分な実力があると言われてしまえば、その事実を目の当たりにしている彼女としては何も言えなくなってしまったのだ。


「確かに実力はあるだろうけど……でも、それでも……」

「フェルモニア討伐の時にアルを頼ったのはどこの誰だったかな?」

「うぐっ!? それは、その……」

「私も大人の都合で力を使わせている事に負い目を感じないわけではないが、力を持つ者には相応の責任と覚悟が必要となってくる。アルの場合は、それが早かっただけの話だよ」

「……ぅ、うん」


 いつもは強気なアミルダが大人しく頷いてしまった。

 そして、アルはレオンの言葉をしっかりと胸に刻み込み、軽い気持ちで討伐に向かおうとした自分を律していた。


「……申し訳ありませんでした、父上」

「気を引き締める事ができたか?」

「はい。ありがとうございます」

「それでは父上。僕はアルと一緒に冒険者ギルドへ向かいます。ジャミール君とシエラ君はどうするのかな?」

「「行きます!」」

「おぉいっ! どうして私はダメで二人は良いのだ!」

「「冒険者になるから」」

「まだ冒険者ではないでしょうが!」

「「ここで登録する」」

「……こ、こらああああぁぁっ!」


 アミルダの絶叫が響き渡るが、そのままレオンに首根っこを掴まれて引きずられていく。

 ジャミールとシエラはアルとキリアンに続いて冒険者ギルドへ歩き出した。

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